第46話 閑話<社会の窓>

 市からの依頼で、車で40分ほど移動した先で公演することになっていた頃の、その公演会場で準備中の出来事。

 テーブルや椅子を会場の隅にまとめ、僕だけが会場の真ん中で椅子に座って、みんなは立っている。

 しばらくそうして座っている僕のところに、栗原氏(夫)が慌ててやってきて、耳元でささやいた。

「社会の窓が開いているぞ」

「あっ……」

 僕と栗原氏(夫)は、二人で大笑いしながら、部屋の外にダッシュで出て行った。大笑いしている僕と栗原氏のところに、部屋の中から高島さんの大きな声が聞こえてきた。

「布施さんどうしたのぉー…………ねぇ誰か教えてぇーーー…………ねぇ教えてよぉーーー…………」

 部屋の外で大笑いしていた僕と栗原氏のところまで、部屋の中にいた高島さんの声が聞こえてきたのは、よほどに大きな声になっていたのだと思う。

 考えてもみれば、高島さんが僕のことを詮索している感じはずっと受けていたわけで、この時の高島さんのこの振る舞いは僕のことを詮索していることを物語っていたのだろうと思う。

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