第32話 川原さんから僕への告白<2220.07頃>

 明確に日付を特定することができなかったけど、貸別荘に行った日より少し前の出来事だったと思う。

 栗原夫人から川原さんが僕のことが好きだと、間接的ではあったけど告白されたことがあった。

 川原さんは五位さんと同級生で、同じ大学の出身ということしか知らない。彼女達はほぼ同じタイミングでシンキロウの活動に参加してきていた。どうした経緯で参加することになったかは分からない。


              ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆              


 栗原夫人から間接的な告白をされる少し前のある日の夜に、川原さんから携帯に着信があった。

「こんばんは、川原です」

「こんばんは、どうしたの?」

「これから一緒にドライブしませんか?」

「えっ、でも今僕は自宅にいて…………」

「もう布施さんの家の前に居るんです」

「え゛ーーーー(冗談だろ)…………」

 2階の窓から外を覗くと、たしかに川原さんがいた。

「わ、わかった。ちょっとまってて」

「はい」

 困惑……というよりただ迷惑だった。若い女性とドライブ。しかも女性の側から誘われるのは考えてもみれば随分男冥利に尽きると思えなくもない。でもこの時は単純に迷惑な気持ちにしかなれなかった。

 準備をして外に出た。車で来ていた川原さんの車と僕の車を入れ替えて、僕の車の助手席に川原さんが乗り込んだ。


(み、短っ……)


 ミニスカートだった。ミニスカートの若い女性を助手席に乗せて真夏の夜のドライブ。文字にするとこの先大人の情事の話に展開しそうだけど、まったくそうした気持ちにはなっていなかった。

 僕のような不器用な性格というのは、あるいは女性にとってもメリットは大きいのかもしれない。一途な生き方しかできないから、浮気二股はしない。というより、そもそも考えてもいない。

 ここまで積極的に接してこられると、むしろ男の僕のほうが妙に警戒してしまう。また、少しだけ女性の気持ちがわかった気がした。言い寄られるというのはそれだけで警戒モードになってしまうものだろうと思う。たぶん。

 行く先はそれなりの雰囲気があってかつ人気ひとけのある場所という条件で絞り込んで、少し離れているけど、海岸線の道の駅にした。

 道の駅で車を降りて、二人で海を眺めた。眺めは…………何も見えない。暗くて何も見えない。周りが明るいせいか星空をという雰囲気でもない。


(こうして男女二人で佇んでいると周りからはカップルに見えるんだろうな…………勘弁して欲しいな…………)


 この状況で、隣にミニスカートの若い女性が一緒にいるというのは、やはり気にはなってしまう。でもそうなると余計に頭にきてもしまう。そこを理解したうえでそういう格好をしてきているのだろうからと思えるからだ。

 何を話したのか覚えていないけど、他愛のないことだったのだろうと思う。


(とにかく早く帰ろう…………)


 気がせっていた。どうにもこの状況は面白くない。到着してからそれほど時間は経っていかなったものの、そもそも、ここに来るまでの時間もそれなりに経っていたので、早々に切り上げて帰ることにした。

「帰ろうか……」

「えっ……あっ、はい……」


              ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆              


 好意のある女性とこうした出来事があったら男の僕でも(同性の)誰かに話をすると思う。そう考えると、川原さんはこの出来事を(同性の)誰かに話をしたと考えて間違いないと思う。

 そうなるとシンキロウの女性スタッフの中でこの出来事は共有されたのだろうから、高島さんに伝わっているだろうし、伝わっていない可能性は無いと思う。

 別荘の前の高島さんと僕の出来事を思い出せないけど、この川原さんと僕との出来事が高島さんに影響を与えて別荘の日を迎えていたのかもしれないし、そう考えないとほかに原因を思いつかない。

 五井さんと僕が羽目を外してしまった事件があったことで、僕の高島さんに対する気持の信頼度はかなり高くなっていたのだと思う。だから、五井さんとの時のように高島さんがおかしくなることはなかったのだと思う。

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