第104話 回想~アリスの過去~

         ★


『グルルルルルル』


 馬車の周りを大勢のモンスターが取り囲んでいる。


『グオオオオオオオオオオオォ』


「ひっ」


「だ、大丈夫だから」


 馬車の中では幼いころのアリスとローラが身を寄せ合い、モンスターが去るのを祈っていた。

 馬は既に殺され、御者も二人を置いて逃げだしているため移動する手段がなく、外には騒ぎを聞きつけて、ますます多くのモンスターが集まってきた。


「だめっ! 壊れちゃう!」


 ローラが叫んだ。


 さきほどから馬車が執拗に攻撃を受けている。頑丈な作りをしているとはいえ、モンスター相手にいつまでも凌げるものではない。


 事実、少し経つとメキメキと音を立て天井の板が剝がされた。


「あ、ああああ……」


 空から何かが覗き込む、目が一つしかない巨人のモンスターだ。こいつが天井を剥がしたのだ。


 不気味な目が二人の少女を見る。その瞳は品定めをしているようで、二人は怯え震えあがった。


「こ、こんなところで死ぬわけにはいかない」


 アリスが剣を抜くと、刃が白く輝いた。


「せめて、ローラだけは守る!」


 彼女は勇気を奮い立たせ、周囲のモンスターを睨みつけた。


 巨人が手を伸ばしアリスを無視し、ローラを掴もうとすると、


「ひっ、いやああああああああああああ」


 次の瞬間、馬車の中が輝き爆発した。


 しばらくして意識を取り戻したアリス。


「なに……これ?」


 彼女は目の前の光景を見て言葉を失った。


 パチパチと音を立て馬車が燃えている。どうやら、自分は馬車から弾き飛ばされたようで、地面に横たわっていたらしい。


「そういえばローラはっ!」


 命に代えても守ると誓った妹。もしかして馬車の中に取り残されてしまったのではないかと焦りが浮かんだ。


「う……うーん」


 背後から声がして、振り向いてみると、そこには横たわり気絶している妹の姿があった。


「良かった、無事みたいね」


 ほっとしたアリスは、何が起きたのか周囲を見渡してみる。


「ひっ!」


 そこには四肢を爆散させたモンスターたちの死骸があった。


「うっ!」


 アリスはこみあげてきたものを抑えるとうずくまった。


 それは、何か凄まじい力を受けたようでどのモンスターも原形をとどめていない。


「私にはこんなことできない。あの時、剣を抜いて立ち向かおうとして……」


 当時の状況を何とか思い出そうとする。


「そうだわ、思い出した。一つ目の巨人がローラに襲い掛かろうとして」


 妹の叫び声とともに背中から恐ろしい力を感じたのだった。


「おねえ……ちゃん?」


 意識を取り戻したようで、ローラが起き上がると背中から抱き着いた。


「ふえぇ……怖かった。怖かったです」


 感情を露わにし、身体を揺さぶる妹。


 この力を――に知られてしまうのはまずい。何としても私だけの秘密にしないと……。


 視界一杯に広がる妹の顔。私は妹を強く抱きしめる。


「お、おねえちゃん。痛いよぉ……」


 腕の中で見上げてくる妹に私は真剣な顔をすると、


「お姉ちゃんが守ってあげるから」


 覚悟を決めるのだった。


          ★

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