第45話責任問題になる

          ★


 ――ザッザッザ――


 無造作に進んでいるのか侵入者の足音が聞こえる。

 私は木の陰に隠れると機会を伺っていた。


(一体何の目的で? エリバンが裏切った?)


 王女である私がここにいることを知っているのはエリバン王国の重鎮と同行の騎士だ。

 同行の騎士の選定には気を使ったし、何よりここで私に危害を加えたところで責任問題になる。


(そう考えるとエリバンかしら?)


 だが、エリバン王国も我が国と敵対する意味がない。そもそもの話、これまで国交がなかったのだから、恨みもなければ縁もないのだ。


 今回の調査みたいに便宜をはかることはあっても邪魔をする意味はない。


(いずれにせよ、相手の意図がわからないなら先制した方がいいわね)


 結界を壊して入ってきているのだ、とりあえず無力化してから拷問にでもかけて目的を聞き出せばいい。


 しばらく息をひそめて待つ。相手の実力が図れないとなると、心臓が脈打つ。

 私はどうにか心をコントロールすると音もなく剣を抜いた。


 そして、目標の影が映ると……。


「はっ!」


 死角から飛び出すと斬りつけた。


 ――キイーーーーン――


 金属がぶつかる音が泉にこだまする。


「いきなり何をするっ!」


 目の前には1人の青年が立っていた。

 年のころは私と同じぐらい。だが、妙に目が惹かれてしまいそうな顔立ちに一瞬私の思考が鈍った。


「それはこちらの台詞よっ! 大人しく倒されなさいっ!」


 完全な不意打ちを防いだことも驚きだが、恐ろしく綺麗で鋭い剣が目に入る。

 あのタイミングで剣を受けたということは最初から帯剣していたということになる。


 そうならばやはり目的は私ということになる。


「っと! くそっ! 話ぐらい聞いてくれてもいいだろうがっ!」


 男は私の剣を躱しながらも会話を続ける。もしかすると仲間が駆けつけてくるまでの時間稼ぎだろうか?


「やるじゃない。私の剣をここまで躱す人間は久しぶりねっ!」


 王国で、私に並びたつ剣士は存在しなかった。

 私は初めてまみえる強敵を前に自然と口の端が釣りあがる。


「ったく。クズミゴには臭いをつけられるし、変な女に斬りかかられるし……。呪いでも掛けられてるんじゃないか?」


「だ、誰が変な女ですっ! この無礼者っ!」


 小手調べは終わりとばかりに私は男へと飛び込む。そして……。


「【ロイヤルバッシュ】」


 剣が輝き力を増幅した横薙ぎを放った。この威力は金属の盾ごと騎士の鎧を斬り裂く。普通に避けるしかない攻撃だ。


 相手が思っているよりも手練れだったので、手加減が出来なかった。腕の1本ぐらいは諦めてもらう。


 そんな、覚悟で放った1撃が……。


 ――キンッ――


「えっ?」


 手に伝わってくるのは最小の衝撃。

 本来強い力がぶつかればお互いの腕に衝撃が走るはず。


 だが、目の前の男はその衝撃を完全に殺す受け方をしたということになる。


「っ!」


 私は警戒すると距離をとった。

 今のような受け方は余程相手との実力差がなければできない。つまりこれをされた時点で相手の方が強いということに。


「はぁ、仕方ない。話を聞く気がないなら無力化させてもらうからな」


 ようやく男は真剣になり剣を構えた。その型は使う人間を見たことがない、だが知っている型だった。


「それは古流型剣術ね?」


「どう呼ぶかは知らないな。知り合いのエルフが使っていたから教わったんだよ」


 エルフは余程の変わり者でなければ人間を好んでいない。

 そんなエルフと知り合いというのは個人的に興味を惹かれる。


「それじゃあ……。受け損なうなよ?」


 真剣な言葉に喉をゴクリとならす。今まさに攻撃がくる。目の前の男に集中していると……。


「ふっ!」


 一瞬にして男との距離がゼロになった。そして…………。


「っ!」


 何とか目で追えたのは3撃目まで。私はその攻撃を3度受けるとバランスを崩し……。


「きゃあっ!」


 4撃目を受けると吹き飛ばされ泉へと落ちた。


「ちょっ! わぷっ!」


 咄嗟のことで慌てる。攻撃を受けた手が痺れていて水を飲んでしまった。

 このまま溺れてしまうのか。そんな風に水中から上を見ていると……。


「大丈夫か?」


 手をグイっと引っ張られ水中から顔を上げる。


「ケホッケホッ!」


 口の中から水を吐き出し、目の前の男に抱き着く。

 男は泳いできたようで衣服が水にぬれてべったりと張り付いていた。


「悪かった。もう少し手加減しても良かったんだけど、避けられるきがしたんでな」


「あ、あれで手加減したって……嘘でしょう?」


 水に濡れた顔が目の前にある。至近距離から男を見ていると視線を外せなくなりドキドキしてきた。


 しばらくの間、男と見つめ合う。男の澄んだ瞳に吸い込まれそうになり顔が自然と近づいていくのだが……。


「そ、それより離れてもらっていいか?」


 男は私から視線を逸らすと要望を口にする。私が首を傾げると……。


「非常に言いづらいんだが、服が水で透けている」


 その指摘に私は自分の身体を見る。すると……。


「きゃあああああっ!」


 慌てて背を向ける。私の服も濡れて透けていたからだ。


「すまない。不可抗力なんだ……」


 そう言って謝る男。私は涙目になると男を睨みつけた。


「せ、責任とってもらうからねっ!」


          ★


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る