第2話邪神は滅んだ

『き、貴様。一体何をしたのだ?』


「えっ?」


 ここにきて邪神が初めて警戒心を見せてくる。


『我のイビルビームは最強のスキルだぞ。例え古代竜であろうと不死鳥であろうと、神でさえくらえば滅びるのだぞ』


 そうは言われても俺にも状況が良くわかっていないのだ。


『こうなれば連続で放ってやる。例えまぐれで避けたとしてもこれだけ放てば躱せまい』


 どうやら邪神の中では先程のビームを俺が避けたことになっているらしい。

 無数のビームが俺に殺到するのだが…………。


『なっ! ありえぬっ!』


 完全に避ける隙間すらなかったそれが消滅した。一体何が起きているのかわからない。

 俺は原因を探るつもりでステータスを見た。


 名 前:エルト

 称 号:街人

 レベル:1

 体 力:5

 魔 力:5

 筋 力:5

 敏捷度:5

 防御力:5


 スキル:農業Lv2

 ユニークスキル:ストック(1/1)


【ストック】

・イビルビーム×9999


 何やら良くわからない間にステータスが変化していた。


『おのれおのれっ! こうなったら直接貴様を引き裂いてくれるっ!!』


 邪神は杖を投げ捨てると俺に向かってきた。


 何となくイメージが流れ込んでくる。先程無意識に身体が動いたようにこの先どうすればよいのかがわかった。


『その脆弱な身体を引き裂いて腸を引きずりだしてやる。貴様の首を手土産に国に降臨して二度とこのような舐めた真似を出来ないようにしてくれるわっ!』


 まもなく邪神の手が俺に触れようかというとき、俺の頭の中で何かが「カチリ」と音を立てた。そして本能が命ずるままに行動した。


「【イビルビーム】」


『な、なんだとおおおおおーーーーーー!!』


 黒い波動が俺から解き放たれ邪神を直撃する。


『ば、ばか……な……。我の最強スキル……貴様が……使う……だ……と?』


 信じられないものを見るかのように驚愕の表情を浮かべた邪神。


『あり……え…………』


 音を立てて地面へと倒れた。


 それからしばらくして近寄ってみる。すると骨は灰になり風に運ばれて散っていく。最後に残されたのは王冠とマントに杖。そのほか邪神が身に着けていた装飾品の数々だった。




「えっと……もしかして邪神が滅びたのか?」


 どうやら邪神の言葉に嘘はなかったようだ。俺が撃ったのはイビルビーム。古代竜や不死鳥、神でさえ滅ぼせる威力の光線だ。


「まさか俺のユニークスキルにこんな効果があるとはな……」


 死の直前に目覚めたのだろうか?

 今ならはっきりとスキルの使い方が頭に刻み込まれている。


 俺のスキルである『ストック』とはどんなものでも溜めることができるスキルだったのだ。


「今のでレベルが上がったみたいだな……」


 俺は信じられないものを見るようにステータス画面に釘付けになる。



 名 前:エルト

 称 号:街人・神殺し

 レベル:774

 体 力:1551

 魔 力:1551

 筋 力:1551

 敏捷度:1551

 防御力:1551


 スキル:農業Lv2

 ユニークスキル:ストック(1/775)


【ストック】

・イビルビーム×9998


「さすがは邪神だけある。ステータスがとんでもないことになっている」


 先程まで、俺は人よりも弱い能力値しか持たない人間だった。

 だが、今は違う。


 邪神を倒したことでレベルが上がっており、最強の強さになっていた。


「えっと、取り敢えずアイテムを拾うか」


 俺は我を取り戻すと邪神のマントや杖。その他、魔法が掛かっている道具や装飾品を回収していく。


「全部ストックに溜めておけるから便利だな」


 俺の『ストック』はアイテムを保管しておくこともできる。


「奥の部屋には財宝か……。きっとこれまで生贄になった人が身に着けていた物や供物として捧げられたものなのだろうな」


 俺はそれらもしっかりとストックしていく。しばらくすると……。


「これは、凄そうな剣だな」


 岩に突き刺さっている剣を発見した。


「硬いな。抜けないみたいだが……」


 まるで岩とくっついているかのようなそれを……。


「あっ、ストックで取れたな……ふむふむ【神剣ボルムンク】というのか」


 ストックしたおかげで固有名がはっきりした。それから数十分かけて部屋に散らばる全ての宝物を収納した俺は……。


「さて、戻って皆に邪神が死んだと伝えるか」


 来る時に使った魔法陣に飛び乗る。長きに渡って邪神に苦しめられてきた人達は喜ぶだろう。

 俺が魔法陣に突入していく瞬間の悲しそうな幼馴染の顔が思い浮かぶ。早く無事を知らせて安心させたい。きっと怒られることになるだろうが…………。


 俺は口の端を緩めて転移を待つのだが……。


「……動かないな?」


 どうやらこの魔法陣は一方通行のようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る