第3話回復の魔法陣

「さて、どうしようか?」


 動かない転移魔法陣を見下ろしながら俺は考える。


 転移魔法陣が動かないということは俺は国に帰ることができないということ。つまり、邪神が滅んだことを報告することもできなければアリシアと再会して怒られることもできない。


「とりあえずここから出るしかないか?」


 邪神がいた祭壇側には財宝が置かれていた。だが逆側の遠い場所には扉が見える。

 扉があるということはどこかに繋がっているということ。


「ここにいても仕方ないから行くか」


 何せ、俺は邪神の生贄になりにきたのだ。食べ物の1つも持っていない。このままでは飢え死にしてしまう。


 俺は神剣ボルムンクを手に扉を開けた。




「それにしても、長い通路だけど誰とも出くわさないな」


 てっきり何か恐ろしいモンスターでもいるのかと思っていたのだが、生き物の気配が全くない。


「食糧はどこまで行っても見当たらないし」


 やはり見た目が骸骨なせいか食事を必要としていなかったのか?

 でも、生贄を欲していたということは食べるつもりだったのではないだろうか?


 食べたところで骨から身がこぼれそうなのだが、邪神の生態についてこれ以上考えても仕方ないだろう。


「さて、次の部屋は……」


 ここに来るまでの間に色々な宝を回収している。邪神は魔導具コレクターなのか強力な剣やら槍やらがたくさん見つかった。

 【ストック】にはアイテムの説明もついているので、どれが有用なアイテムなのか見れば丸わかりだ。


「そろそろパンの1つでも出てこないかな……」


 だが、今欲しいのは食糧だ。売れば一生安泰な高レア装備も無事に持ち帰らなければ意味がない。俺は期待をしつつ部屋に入ってみると……。


「なんだ? 魔法陣?」


 白く光る魔法陣がある部屋だった。

 優しい光とともに暖かい何かを感じる。


「転移の魔法陣ではなさそうだが……。なにやら心地よいオーラを感じるな」


 俺は吸い込まれるようにその魔法陣に乗ってみる。


「なんだこれっ! 疲れがなくなっていく。それに凄く気持ちいいぞ!」


 俺が乗ると魔法陣の輝きが増した。そして歩き回った疲れから精神的な疲労までを完全にリフレッシュしてくれた。更に、邪神と対峙した時にいつの間にか擦りむいていた怪我も治っている。


「もしかして伝説のダンジョンの魔法陣?」


 小説に出てきた伝説のダンジョンと言われた場所のラスボス手前の部屋に存在する魔法陣と同じ。

 体力や魔力を完全に回復する効果があり、物語ではボスに挑む前の勇者パーティーがここで完全回復をさせていた。


 邪神がいるような場所ならあっても不思議ではない。とにかく滅入ってた気分も復活したし、何よりべたついていた汗も取れ、爽快な気分だ。


「これならまだ頑張れそうだぞ」


 ここには特に目立つものはない。俺は部屋をでて次に向かおうとするのだが…………。


「まてよ?」


 俺は少し考え込むと魔法陣を見つめる。そして……。


「こうしたらどうなるかな?」


 再び魔法陣に立つ。そして魔法陣が輝く瞬間に――


「【ストック】」


 その回復力をストックしてみた。


「おおっ! やっぱり溜めることができたな」


 体力も魔力も怪我さえも一瞬で治す魔法の光。これがあればこの先怪我をしても

大丈夫。


「とりあえず溜められるだけ溜めておくか……」


 疲れたら回復させればいい。どうやらこの魔法陣は俺の空腹状態も解消してくれるようなのだ。

 これさえあれば餓死することはなくなる。俺はしばらくの間ここで回復の魔法をストックしていくことにした。





「とりあえずここまでか……。3日ぐらいはぶっ通しだった気がするが」


 途中からストックの数字が増えるのを見続けていた。

 ずっと乗っていれば魔法陣が発動するので俺は時には寝たりしながら回数を溜め続けた。結果として…………。


 ステータス画面の【ストック】の項目を見る。するとそこには――


・パーフェクトヒール×99999


「ちょっと溜めすぎたかも?」


 一生かかっても使い切れないほどのパーフェクトヒールがストックされていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る