第87話注目の的
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目の前にいる全員の視線が集まる。
参加者たちは全員高級な服装に身を包んでおり、いで立ちにも品がある。そんな彼らの視線を一心に集めた俺は、慣れない状況に内心で焦りを浮かべていた。
パーティー会場は広く、エントランスからワイングラスを片手にこちらを見下ろす人物もいる。
どこか惚けた表情をしているが、興味を隠さないその視線に俺は値踏みをされているのだと悟った。
「ほら、エルト君。いつまでも突っ立てないで歩くわよ」
隣からアリスがせっついてくる。
彼女は胸元が開いた赤いドレスに身を包みながら、俺の左腕に自身の腕を絡めている。
普段から綺麗だとは思っていたが、こういう社交の場では化粧をしているらしく、その美しさに周囲の人間も心を奪われているようだ。
「ああ、いくぞ」
歩調を合わせるべく声を掛けると俺たちは皆が待つパーティー会場の中へと入っていった。
「それにしてもその若さで国を買える程の財産を持つとは羨ましいですな」
「おとぎ話にでてきた天空の城の持ち主だとか。一度乗ってみたいですわ」
「邪神を討伐されたとか、是非一度武術の指南をお願いしたいものです」
俺たちが入場すると、待っていたかのように人が殺到してくる。猛獣を思わせるようなギラついた瞳とグイグイ距離を詰めてくる人たち。
「ええ、まあ……」
そんな人間を相手に俺が引いていると……。
「失礼。エルト様はこういった場に慣れていませんので。皆さまお手柔らかにお願いしますね」
アリスがそう言うと、その場の人間はそちらへと注目した。
「確か、イルクーツ王国のアリス王女でいらっしゃいましたか?」
「ええその通りですよ。貴女は確か、キアナ王国のモナ王女でしたか?」
「ご存じだったのですか?」
まさか名前を言われると思っていなかったのか、モナ王女は驚いた様子を見せる。
「以前、父に連れられて貴国を訪れた際にパーティーでお会いしましたよね?」
眩しいばかりの笑みを浮かべたアリスはそう言うと、モナ王女の手を取った。
「ろくに言葉も交わさなかったのに、覚えていていただけて感激ですわ」
喜んでいるモナ王女を横目にアリスは振り返ってみせると。
「そちらのあなたはコパック王国の第二王子、貴女はニナナ王国の公爵令嬢でしたわね?」
次々と言い当てるアリス。彼女は周囲を巻き込み圧倒して見せた。
「と、ところで、アリス王女は英雄様とはどういった関係なのですか?」
だいぶ打ち解けてきたのか、話をしていた一人が質問をする。
その視線は俺の腕へと向いている。さきほどから相変わらずアリスが抱き着いている。
周囲の視線がますますきつくなった。
「ふふふ、どのように見えますか?」
口元に手を当て笑って見せるアリス。
「私がパーティーに慣れていないもので、粗相をしないかこうして付き添ってもらっているのですよ」
真実を言おうとしないアリス。放っておくと誤解が広がりそうなので俺は口を開いた。
「ま、まあ。美男美女の組み合わせでしたのでてっきり付き合ってるのかと思いましたわ」
「そんな、恐れ多いです。アリス様は厚意で付き添って下さっているだけなので」
実際、言っていることは間違いない。
俺は王族や貴族、そのパーティーの礼儀作法を知らない。
なぜこうしてアリスと腕を組んでいるのかというと、彼女にパーティーの間のサポートを頼んだからだ。
「まあ、それではもしよろしければ私とも一緒に会場を回ってくださいませんか?」
そう行って一人の令嬢が開いている方の腕へと手を伸ばしてくるのだが、
「コホン。エルト様は本日は私をエスコートしてくださるとおっしゃったのです。それともまさか、両手に花が希望でしょうか?」
「まさか、今日の時間はアリス様に捧げると決めていますよ」
「あら、嬉しいです」
アリスはますます密着すると嬉しそうな顔をした。
「それでは、私たちは他の方への挨拶もありますので。これで失礼しますね」
アリスはそう言うと、俺の腕を引っ張り歩き出した。
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