第6話ブラッディオーガ戦

「こっちにこいっ!」


 俺は神剣ボルムンクを振り上げると目の前の赤裸のオーガを挑発する。


「AAAAAAAAAA?」


 だが、赤裸のオーガは倒れている女性を背にして動かない。

 これではイビルビームを使うことができない。


「くそっ!」


 仕方なしに俺から距離を詰めることにした。


「IIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!!」


 次の瞬間。赤裸のオーガは棍棒を振り回して薙ぎ払ってきた。


「うわっ!」


 大振りなので躱すことはできたのだが、赤裸のオーガの動きを読み切ることができない。


「暴れるならもう少しこっちにこいっての」


 横に移動しつつ攻撃を躱すのだが、相変わらず直線状には倒れている女性がいる。

 赤裸のオーガの攻撃パターンを読む。そして棍棒を振り上げたところで…………。


「ここだっ!」


 俺は覚悟を決めると一足飛びに懐に入ると剣を横に払った。


「UUUUUUUEEEEEEEEEEEっ!?」


 だが、飛び込みと目測が甘かったのか、俺の剣は赤裸のオーガの腹部を軽く斬り裂くだけだった。


「こんなことならもっと剣術も習っておけばよかった」


 何せ元々のステータスが弱く、周りからも馬鹿にされていたのだ。どちらかというと本などを読んで過ごす時間が多かったので、それっぽいことをしたのはアリシアとのお遊びのみ。


 その遊びでもアリシアに脳天に一撃をくらわされ気絶したのだから、俺の剣は完全に素人以下なのだ。


「だけど今は無い物ねだりはしていられない」


 何せいつ赤裸のオーガが倒れている女性にターゲットを変えるかわからない。

 俺はつたないながらも攻撃を繰り出すのだった。






「OoOooOooo!!」


「なかなか倒れないな」


 息を切らす赤裸のオーガを前に俺は溜息を吐く。

 素人同然の剣術なのだが、ステータスのお蔭か相手の攻撃は余裕をもって見切れる。

 だが剣の振りが甘いせいか、いまだに倒せていないのだ。


「だがそれも時間の問題か?」


 相手の動きは徐々に鈍ってきているし、俺には回復手段もあるのだ。

 このままいけば遠からず倒せるだろう。


「う……うーん」


 その時。フードをかぶった女性が声をあげ寝返りを打った。

 そして彼女は目を覚ますと…………。


「あれ? ここはどこ?」


 ハラリとフードが外れ中から綺麗な金髪が零れ落ちる。

 青い瞳に尖った耳。幻想的ともいえる美しさ。彼女はエルフだった。


「ブ、ブラッディオーガ!?」


 彼女の叫び声に赤裸のオーガが反応する。そして彼女の方を振り向くと……。


「馬鹿っ! 逃げろっ!」


 俺は慌てると彼女に向かって走った。赤裸のオーガの棍棒が薙ぎ払うように振られる。

 俺は何と間に合い、彼女の身体を抱きしめると…………。


「きゃああああっ!」


 その棍棒の一撃を受けて、彼女と共に吹きとばされた。


「うぅ……痛い」


 俺の腕の中で彼女が痛そうな声をする。どうやら生きているようだ。


「間に合ってよかった。大丈夫か?」


「うん。私は平気だけど……あなたが……」


 彼女が心配そうに俺の身体を見る。


 庇った際に右半身から棍棒を受けてしまったので右腕が折れていた。


「あんたが無事ならそれでいい」


 怪我はパーフェクトヒールで治せるのだ。死ななければどうということはない。


「それより逃げてっ!」


 俺の腕の中で彼女はそう叫んだ。


「あいつはブラッディオーガよ! この森に長い間住んでて私たちを苦しめている凶悪モンスターなの!」


 なるほど、どうりで強いわけだ。だが…………。


「そんな奴ならここで倒してしまった方がよいだろう」


「無理よっ! あなた腕怪我してるし武器だって……」


 彼女の視線の先を追う。


 慌てていたので神剣ボルムンクは地面に投げ捨ててある。ブラッディオーガの背後にあるので取りに行くことはできないようだ。


「KAAAAAAAAAAAA!!!」


 勝利を確信したブラッディオーガは笑みを浮かべると棍棒を振り上げる。


「もうだめっ!」


 あきらめたのか目をつぶるエルフの女性。

 だが俺はこの位置関係になるのを待っていた。


「駄目じゃない!」


 次の瞬間、イビルビームがブラッディオーガを貫く。


「KIKUKEKO?」


「えっ?」


 目の前でブラッディオーガの姿が消えていき、あとには肉の塊と角がその場に残った。ドロップアイテムになったということは死んだらしい。


「一体どうなって……?」


 まだ状況を把握しきれていない女に俺は言う。


「良かったな。長年苦しめていたモンスターは死んだようだぞ」

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