第15話食糧調達
「あっ、エルト次はこっちに行きましょう。美味しい果物が実った木があるのよ」
「慌てて走ると転ぶぞ」
はしゃぐ様子でこちらを見ながら走るセレナを俺はたしなめる。
「平気よ。私にとってこの辺は庭みたいなものだもん」
元気に動き回るセレナったが、枝がスカートに引っかかりバランスを崩す。
「きゃっ!」
「ったく。だから言ったのに」
俺は転んだセレナに手を貸すと起こしてやった。
「いたたた……」
「怪我はしていないか?」
「うん、平気だよ。ありがとうね」
起き上がるなり俺から手を放すとスカートの土を払う。
「どうした? 前を歩かないのか?」
隣を歩き始めたセレナに俺は聞くと。
「うん、次に転んだらエルトに助けてもらえるかなと思ったから」
何故か転ぶ前提で話を進めるのだった。
「大分果物もストックできてきたな。あとは動物の肉なんかも欲しいところだ」
俺は現在この迷いの森を抜けるための準備をしている。
一応地図は貰う予定だが、抜けるまでにどれだけ掛かるかはわからない。あらかじめ食糧を充実させておくつもりだ。
そんなわけでセレナに案内をお願いしたところ2つ返事で了承されたのでこうして収集場所を案内してもらっている。
「動物といってもこの辺だとモンスターぐらいしかいないんじゃないかな? 弱い生き物はこの森で生きていくの不可能だし」
セレナは口に手を当てるとそんなことを言った。
「セレナの基準でいいんだが、美味しい肉のモンスターっているか?」
ずっと果物だけでは辟易してしまう。俺が聞いてみると……。
「それなら、ドリル鳥とかチャージ牛とかかなぁ?」
「それってどんなモンスターなんだ?」
「えっとね、ドリル鳥はクチバシが回転して飛んでくる鳥でまともにうけたら身体に穴が開くの。チャージ牛は凄い力で突撃してきてうけたら身体に穴が開くの」
どちらにせよ受けたら穴が開くらしい。
「それ俺で倒せると思うか?」
この辺で主食なのかもしれないが、俺が相手にできるかは未知数なので聞いてみると。
「うん、平気だと思うよ。エルフの皆で狩るときはお兄ちゃんを前にだして数人がかりで倒すんだけど、エルトなら1人でも余裕だよ」
信頼に満ちた笑みを俺に向けてくる。
「まあ、やってみるか……」
どちらにせよ美味しい肉の前にはやらないという選択肢はとれない。俺はセレナに乗せられた形になるがチャレンジすることを決意した。
「とりあえず数は十分に確保できたかな?」
あれからセレナの案内でモンスターの巣に案内された俺はドリル鳥とチャージ牛をそれぞれ10匹程狩ってみた。
「十分どころじゃないよ。私たちが1匹倒すのに苦労してるのに全部1撃で倒したよね?」
セレナが言うほどモンスターは強くなかった。やはりブラッディオーガやブラッドアイはこの辺では別格に強かったらしい。
「俺の分はそれぞれ1匹いれば十分だ。後は村の皆で分けてくれ」
戦闘経験を積むのが目的だったのだが、フィルから教わった剣術もしっかりと身についていたようで確かな感触があった。
なので、手に入れた肉に関しては世話になっている村の皆に提供する。
「うーん、こんなに大量だと消費しきれないかな……。そうだ! 日持ちするように加工しよっと」
セレナは名案とばかりにポンと手を叩いた。
「ふんふふーん」
機嫌よさげにドリル鳥を解体していく。
ここは村の作業場で、セレナはテーブルで次々と獲物を解体していた。
「セレナ。とりあえず全部ぶら下げたぞ」
「あっ、うん。そっち行くね」
彼女はそう言って俺の傍までくる。彼女の指示で解体した肉を
縄で吊るしておいた。
「うん、いい感じに吊るしてあるね。じゃあ早速っと……」
彼女は目を瞑ると何かに話しかけている。
「火と風の精霊よ。お願い!」
するとセレナの元から風が吹き生肉を揺らし始める。すると生肉に変化が起こる。
風を吹き付ける事で表面が乾燥しはじめた。
「これが精霊の力か。便利なものだな」
「本当はじっくり天日干ししてやるんだけどね、火の精霊に熱を出してもらってその風を送ってるのよ」
どうりで暖かいわけだ。しばらくするとセレナは風を止める。
「さて、とりあえず次に行きましょう」
俺は肉を回収してついていく。
次に到着したのは屋根があるだけの広場だった。それぞれの場所に取っ手がついてあり開くと肉を吊るすフックがぶら下がっている。
「セレナここは?」
俺が質問をするとセレナは振り返り。
「ここは燻製を作るための場所なんだよ。肉とか多めに狩った場合そのままだと長期保存が出来ないからさ。水分を飛ばした後で煙で燻すことで長期保存して備えるの。エルトはやったことない?」
「燻製か。食べたことはあるが、俺自身はやったことがない」
街で暮らしているとそう言ったものは買ってくるので自分で作ることはない。
「もしよかったら俺にもやり方を教えてくれないか?」
俺は興味を惹かれるとセレナの後ろに立つ。
「ええいいわよ。ここには様々な木から作ったチップがあるの。ウイスキーゴブリン、グルミ、ゴッコル、ドラゴンウォークとか」
「それはどれがいいんだ?」
「苦みを加えたければドラゴンウォーク。軽めが好みならゴッコルとかね。エルトはどっちが好きかしら?」
チップ一つで味付けが変わるらしく、俺は悩む。
「どちらかと言えば苦めが好みかな?」
「そう。じゃあドラゴンウォークにしましょうか」
セレナはそう言うと木のチップを下に並べると火をつけた。
「中々に凄い煙の量だな」
下から煙が上がり上に抜けていく。煙を逃がさないためにこうした箱型を用いているのだと気付いた。
「あとは一昼夜燻せば完成ね」
「なるほど……」
俺は興味深くしばらくその様子を観察していると……。
「エルトこっち向いて?」
「うん? ムグッ!」
口の中に何やら熱いものが突っ込まれた。セレナはご機嫌な様子でフォークを引き抜く。俺はそれを噛み切ると肉汁と共に肉の旨味が口いっぱいに広がった。
「これがチャージ牛のステーキよ。残りは燻製にするつもりだけど、せっかく新鮮なんだから少しは食べないとね」
いつの間にか石のテーブルを熱してそこで肉を焼いていた。肉が焦げる匂いが漂ってきてもっと食べたくなる。
「うん、やっぱり美味しい。エルトには感謝ね」
同じフォークを使い、セレナはステーキを食べるととても幸せそうな顔をしていた。
「これは確かに美味いな。俺ももっと貰っていいか?」
「勿論。どんどん焼くから食べさせてあげるね」
こんな美味しい肉は街で食べたことは無かった。このあと俺とセレナは燻製を作りながら2人で肉を食べ続けるのだった。
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