第14話占い師
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「どうじゃなオババよ?」
水晶に手をかざした占い師は眉をひそめると……。
「間違いありませぬ国王様。エルトなる少年は生きておりますぞ」
その場の全員が息を飲んだ。周囲からはひそひそ声がする。その中の言葉を拾うと「一体どうして?」「生贄の身でどうやって生き残った?」「邪神からの要求は無いのか?」
混乱が広がらぬように王国でも極一部の人間のみが集められている。そんな中……。
「やっぱりエルトは生きていたっ! ああ……エルト。良かったよぅ」
アリシアは涙を浮かべて喜んだ。
今回の件だが、アリシアが転移魔法陣がまだ稼働しているのを発見し、その事実を報告した。
王国としても今年の生贄の儀式は終わったという認識だったので、まさに寝耳に水だ。
そんなわけで国1番の占い師に依頼をしてエルトの生存を確認したのだ。
「それでオババ? その少年はいずこへ?」
アリシアと違い、国王としてはエルトが生きていてそれでおしまいとはいかない。
「その者の気配は………………地図をここにっ!」
慌てて1人の人間が地図を持ってきてテーブルに広げる。
占い師はその地図に指を這わせる。
まずイルクーツ王国のある場所を指さす。イルクーツ王国は大陸の東に位置する中堅国家だ。そこから占い師は指をぐるりと大きく回し西まで持っていく。大陸の真ん中にある海を避けるように指を這わせた。
「ここは……」
眉をひそめるアリシア。その指の移動からそうとう遠い場所だと認識したからだ。
「エリバン王国の領地ですね。この深い緑が示すのは入れば生きて帰ることはかなわないと言われている強力なモンスターの巣窟【迷いの森】。生贄の少年がいる場所はここだと私の占いで出ております」
先程と同じような衝撃が走った。
「そうするとその少年はまもなく死ぬのでは?」
「転移魔法陣は邪神の元へと送られる魔法陣。つまり邪神はエリバン王国に根城を構えているということか?」
「いずれにせよ手出しできる場所ではありませんな」
重鎮たちが渋い顔をしながら意見を交換しているのだが……。
「エルトは死にませんっ!」
そんな彼らの話し合いをアリシアは遮った。
「邪神の生贄に捧げられても生きていたんです! エルトはきっと今も元気でいるに決まってます!」
最悪の予想が浮かんでしまったのか、アリシアは涙を浮かべるとその場の全員を睨みつけた。
イルクーツ王ジャムガンは自分のひげを撫でながらアリシアを観察していた。そして……。
「ここで話をしていても仕方あるまい。これまで我が国を苦しめていた生贄制度。それがここにきて異常をきたしたのだ。邪神からの要求は途絶えた」
いずれにせよ情報が足りない。ジャムガンはそう考えた。
「その少年の生死についてはわからぬが、打てる手は打っておくべきだろう。……アリス」
「はい。お父様」
名前を呼ばれて1人の美しい女性が前に出る。この国の王女のアリスだ。
「お前はすぐにエリバンへと向かうのだ。そこで情報を収集し、例の少年がどうなったか調べろ」
今回の件は極秘に片付ける必要がある。その為には王国最強と名高い自分の娘を向かわせるのが最善とジャムガンは考えた。
「かしこまりましたお父様。その御命令確かに承りました」
凛とした様子でお辞儀をするアリス。彼女は早速任務を遂行するために部屋を出ようとするのだが……。
「まっ、待ってくださいっ!」
アリシアがそれを遮った。
彼女はアリスの前まで駆け寄ると……。
「私も連れて行ってください。癒しの魔法が使えるので足手まといにはなりません!」
「治癒魔法の使い手なら宮廷魔道士がいます。場合によっては迷いの森近くまで行く可能性がある。あなたはそんな危険な場所についてくると?」
エルトはただの街人なのでこの手の情報には疎かったが、迷いの森の悪名は冒険者の間で広く知れ渡っている。アリシアは治療の傍ら彼らと話す機会があったのでその恐ろしさは十分に知っていた。
「覚悟の上です」
少し脅せば引き下がるだろうと思っていたアリスだったが、アリシアの真剣な瞳を正面から受け止めた。
「なぜそこまでするのです? エルトという少年はあなたの身代わりに生贄になった。つまり今のあなたは役割を果たして安全な身なのですよ。それをわざわざ危険を冒してまでついてくるなど」
国への献身が認められたアリシアはその容姿も相まってか貴族からの縁談が舞い込んでいる。このまま国に住み続ければ裕福な生活が保障されているのだ。
それを放棄しようという行動にたいしアリスは問いかけた。
「そんなの決まっていますよ王女様」
アリシアは強い意志を持ってアリスを見つめると、誰もが見惚れそうな笑みを浮かべると宣言した。
「私がエルトに会いたい。エルトに会って伝えたいことがある。だから私はどんな場所だろうと構いません」
「気に入ったわ。あなたを従者に任命します」
「ア、アリス様宜しいのですか?」
1人の重鎮が詰め寄ってくる。彼は自分の息子とアリシアをくっつけようと計画していた内の1人だ。
「構いません。全ての責任は私がもちます。元々戦闘なら1人で十分ですから。このプリンセスブレードがある限り私に敵はいませんから」
そういうと腰にかけている剣を見せつけた。
「ありがとうございます王女様」
「アリスでいいわよ。あなたはこれから私の旅の仲間になるのだから」
アリスは腰を落とすとアリシアと同じ目の高さに揃えるとウインクをした。
「どうしてそこまでしてくれるんですか?」
自分のような人間に手を差し伸べる意味が解らない。アリシアはそう疑問を口にする。
アリスはふと笑みを浮かべると、
「あなたとエルト君に興味を持ったからかしらね」
そう答えるのだった。
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