第60話男二人の休暇
「兵士に就任してから最初の休暇をまさかお前と過ごすことになるとは思わなかったぞ」
隣を歩くラッセルさんは手で口元を覆うと大きな欠伸をしてみせた。
昨日は夜番で城の警備をしていたらしく、俺が訪ねた時には兵士の食堂で朝食を摂っている最中だったのだ。
「お前だって王都を歩くのなら俺みたいな強面よりもセレナや幼馴染みの方が良かったんじゃねえのか?」
先日の審議を受けた際にラッセルさんは俺とアリシアの再会を見ている。
セレナとアリシア、そして俺の関係が気になるのかややからかいを浮かべて聞いてきた。
「今日は二人で買い物に出かけていますよ。それで俺だけ一人になってしまったんです」
「なんだそりゃ、つまり俺はお前の暇つぶしの相手ってわけだな」
「いえ、買い物をしたかったのは本当なので」
不快にさせてしまったかと思い、手を振って否定する。
昨日、俺は空いている時間を有効に使う為、一度迷いの森に戻ろうと思っていた。
目的はセレナのエルフの森への里帰りと、邪神の城で色々補充をすることだ。
俺がその話を3人に聞かせると、アリシアとセレナは「準備が必要」と言い出した。
そして「こういう買い物は女同士の方がいいから」と言われたので遠慮した次第である。
資金に関してもアークデーモンとクズミゴハイデーモンを倒した賞金が俺とセレナに振り込まれているので、これまで手が届かなかったような魔導具や魔法具も余裕で買うことができる。
そんなわけで、仕事で何度も王都を訪れていて、かつ俺と面識があるラッセルさんに案内を申し出たのだ。
「まあ、俺もアークデーモン討伐の報酬の他に兵士長としての契約金ももらって懐が暖かいからな。パーッと使いたいと思ってたから丁度いいさ」
ラッセルさんは俺の申し出にたいし、特に気にするなと軽く手を振ると笑顔を向けるのだった。
「そういえば、お前。今回のでなにやら凄い称号を貰うらしいな」
道すがらラッセルさんはふと思い出したかのように呟いた。
「知ってるんですか?」
確か、緘口令がしかれているとアリスが言っていたはず。俺はラッセルさんがどこまで把握しているのか気になった。
「そりゃあな、俺は比較的お前と接していた方だったからな。名前は伏せられていたが気付くさ」
よくよく考えればあの場には大勢の人間がいた。それを完全に口止めするのは不可能だったのだろう。
城内に関しては話が伝わっていると思った方が良いだろう。
「それで、怒らせると問題だから粗相をしなようにと言われてたんだよな。もしかすると、敬語にしたほうが良いか?」
ふと思いついたように言うラッセルさんに。
「今更やめてください。俺にとってはラッセルさんは冒険者の先輩なんですから。気まずいどころじゃないですよ」
顔は怖いが俺はこの人を尊敬している。だからこそ敬語なんて使われた日には距離をとられたようで寂しく感じるだろう。
「ま、エルトにそう言われちゃ仕方ねえな」
「わっ!」
そう言うと俺の頭に手を伸ばすと、グシャグシャにしてきた。
「それで、エルトよ。どこに案内すればいいんだ? お前の武器はそんじょそこらで買える代物じゃないだろう?」
俺が現在身に着けているのは邪神の城から回収した物が殆どだ。
邪神が身に着けていたマントや錫杖、指輪に王冠などは何となく装備する気が起きないが、業物の名剣を持っているのでそれより劣る武器は必要ない。
「俺が案内して欲しいのはアーティファクトを扱っている店ですよ」
なので、俺は目的地をラッセルさんに伝えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます