第31話冒険者登録

「ねえ、どうするの?」


 乗合馬車組合を出るとセレナが早速俺に聞いてきた。

 外国に出るための手段についてだろう。


「考えられる方法としてまずはこの国で冒険者ギルドか商人ギルドに加盟して実績を上げること」


 ひとまずこれが一番現実的な手段だろう。

 時間はかかるだろうが、もしかするとアリシアに手紙が届いてなんらかの接触をしてきてくれる可能性もある。


 それまでの間に働いてお金を稼いで待つ。そうすればいずれ故郷に帰ることができるので悪くはない案だろう。


「国境といってもすべてを封鎖できているとは思わないのよね。森とかに入って抜ければ私たちなら何とかなるわよ?」


 そんな俺の考えに対し、セレナは抜け道をささやく。


「いや、やめておくべきだな」


「どうして?」


「俺たちが越えなければいけない国は全部で3つある。そのすべてに都合よく森があるわけでもないだろう。途中で計画を断念しなければならない可能性が高い以上リスクしかないからな」


「そっか……ごめんね余計なことを言って」


 そういうとセレナの耳が少し垂れる。どうやら落ち込んでいるようだ。

 俺はセレナの頭を撫でる。滑らかな金髪とセレナの暖かさが心地よい。


「俺のためを思って言ってくれたんだ。余計なことじゃない。これからも何か思いついたらどんどん意見してくれ」


 1人の思考では限界がある。こうして傍で提案をしてくれる人間は貴重だし……。


「ん?」


 何より、セレナと一緒にいるということに俺はいつの間にか安らぎを感じていた。





「冒険者登録を2人分お願いします」


 結局、ひとまず冒険者として活動することを決めた俺たちはこの街の冒険者ギルドのドアを開けた。


「はい、お2人様ですね、戦士と……えっ?」


 俺たちの格好をみた受付嬢はまず俺を見て腰に下げている剣から戦士と判断する。そしてその視線を横に立っているセレナに向けたところで固まった。


「どうかしましたか?」


 俺が聞くと受付嬢は我を取り戻した。そして……。


「い、いえっ! エルフの方が登録するのは珍しいので……」


「そんなに珍しいんですか?」


「そうですね、この国ではエルフの冒険者は全部で5人いますが、いずれも優秀なハンターであったり精霊使いです。そちらの……」


「セレナよ」


 名前を聞いた受付嬢は言葉を続けた。


「セレナ様はもしかして精霊を使役できるか神がかった弓の腕前を持っていたりされるのですか?」


「神がかった弓の腕前はわからないけど、精霊とは契約しているわ」


 その言葉に周囲で聞き耳を立てていた冒険者たちが湧きたった。


「すげえな、俺たちの街もとうとうエルフの冒険者を獲得できるのか」


「精霊魔法があれば楽にこなせる依頼もあるからな」


「それにしたってあの美貌だぞ。是非ともお近づきになりたい」


 そんな声が聞こえてくる。


「それで、俺たち2人の登録は問題ないのですか?」


 そんな周囲の興奮とは別に、俺は淡々と登録を進める。


「あっ、はい。むしろ大歓迎です」


 歓迎されているのはセレナのようだ。受付嬢と冒険者の好意の視線が明らかにセレナに向かっている。


「それでは、こちらの用紙に記入をお願いします」


 俺とセレナは紙を受け取ると記入をするのだった。




「では内容の確認です。登録者はエルトさんとセレナさんですね。エルトさんは剣士でセレナさんは精霊使い。これで間違いないですか?」


「ああ」


「ええ」


 確認事項を1つずつ潰して行く。


「それでは初期登録費用に1人5000ビルお預かりしますがよろしいでしょうか?」


 受付嬢の言葉に俺は10000ビルを渡した。


「確かに受け取りました。それでは冒険者カードを発行しますので、そちらのクリスタルに手をかざしていただけますか」


 俺たちは言われたとおりに手をかざすと、カードが出てきた。


「そちらが冒険者カードになります。今後討伐したモンスターはすべてそちらに記録される仕組みになっております。また、そちらのカードに依頼料が振り込まれます。冒険者が提携しているお店では財布代わりに使用することもできますので紛失にはお気を付けください」


 流れるような説明だ。毎日多くの冒険者に話をしているので慣れているのだろう。


「エルトさんとセレナさんは冒険者に登録したばかりなのでギルドランクはFからのスタートになります。冒険者ランクは依頼を受けるときの目安になります。Fランクの依頼を10回達成するとEランクに、Eランクを10回達成するとDランクにと上がっていきます」


 補足として連続して同じランクの依頼を3度ミスすると降格するらしい。

 これはペナルティがないとわざと仕事を受けたまま放置する輩が現れたりするからだ。


「次にパーティーについてです。低ランクのうちは冒険者は単独で行動することが多いです。簡単な採集依頼であったり低ランクモンスターの討伐だったり。ですが、ランクが上がるにつれて討伐対象や採集するアイテムのレア度があがります。そうなったときに1人で依頼を受けると失敗するリスクがありますので、大抵の冒険者はどこかのタイミングでパーティーを組むようになります」


「それって、誰とでも組めるのかしら?」


 セレナの質問に受付嬢は首を横に振る。


「組めるのは自分と2つ離れたランクまでですね。パーティー登録の際にそれぞれパーティーランクが決まります。こちらも同じくFランクが最低でパーティーで5回依頼をこなすごとにランクが上がりますが2回失敗すると降格になります」


「なるほど、組む以上ミスは連帯責任になるわけですね」


 俺の言葉に受付嬢は頷く。


「ここまでで何か質問はございますか?」


 理解しているかの確認に俺はせっかくなので質問をする。


「高ランクになれば外国へ出るための身分証を発行してもらえると聞いているんですが、どのぐらいのランクになればいいんですかね?」


「個人であればCランク。パーティーでならBランクからになりますね」


 FランクとEランクは駆け出し冒険者の扱いになるが、Dランクで一人前。それより上はベテランに数えられるようだ。


 そう考えると短時間でランクを上げるのは中々に難しそうだな……。

 俺がそんなことを考えていると、


「短時間でランクを上げたいんだけど方法はないの?」


 セレナが質問をした。


「基本的には既定の回数依頼をこなしてもらうのが一番早いですね」


 当然の受け答えをした受付嬢だが後に言葉を付け足す。


「ですが、例外があります」


「どんな例外?」


「災害級などの高ランクモンスターを狩ることですね。これらのモンスターは国や街に大きな被害をもたらします。これを狩ることができれば特例として冒険者ランクを上げることがあります」


 その際にはギルドマスターの承認が必要ですけど、と受付嬢は答えた。そして……。


「ですが、災害級なんてそれこそドラゴンとかそんなレベルですからね、おいそれと街や平原に現れたりしませんのでほとんど意味はないかと」


 確かに迷いの森を出てからというもの強力なモンスターはいなかった。俺たちが沈黙していると受付嬢は頷くと。


「以上が説明になります。それではエルトさん、セレナさん。お2人の活躍を冒険者ギルドは期待しています」


 そういうと笑顔を向けるのだった。

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