第32話ベテラン冒険者

「とりあえずどの依頼にしようか?」


 あれから受付を離れた俺たちは、早速なのでギルドの依頼を受けてみることにした。


 皆の注目を集めながら掲示板の前に移動する。

 掲示板には討伐依頼から収集依頼など、多数の紙が貼られていた。


「そうだな、ここはゴブリン討伐依頼とかどうだろうか?」


 まずは簡単な依頼からこなしていく。ゴブリンなら来る途中に結構見かけたし、やつらは街の近くの農場から家畜を攫って行くので被害を抑える意味でもやっておくべきだ。


 故郷で散々被害にあっているのを見てきたので喜ぶ人の顔が浮かぶのだ。


「なら私は採集依頼にするわ。一度に受けられる依頼は1つまでだし。このポーション用のハーブを10個採集なら簡単だしね」


 セレナは植物の見分けが得意なので良い選択だ。

 俺とセレナは依頼内容を確認すると受付に申請に行こうとするのだが……。


「おいおいっ! ちょっと待ちなよ」


 冒険者の1人が声を掛けてきた。斧を背中に担いだ壮年の男だ。


「何か用でしょうか?」


 俺が返事をすると……。


「お前たち新人だろ? 俺たちが冒険者の心得ってやつを教えてやるよからよぉー」


「へへへ」


 いつの間にか囲まれている。顔に傷があるせいでいかつく見える男は笑っており、俺たちはその提案を――





「よし、そこで正面から突っ込め。ゴブリンは見た目の通り身体が軽い。勢いでぶつかればあっさりと有利なポジションをとれるからな」


「はいっ!」


「ハーブもね、いくつかポイントがあるのよ。生えやすい場所を覚えておいて全部を摘まないようにすればまた何日か経てば生えてるの。そうすれば採集の手間が随分と減るわ」


「なるほど、勉強になるわ」


 俺たちは現在、冒険者の人たちの指導を受けている。

 指導をしてくれているのは街で中堅冒険者のラッセルさんのパーティーだ。


 顔が怖いが面倒見の良い人で、いつも冒険者に登録したての人間に声を掛けては初心者にありがちな失敗を教えているらしい。


「よし、良いぞエルト。だが、武器の威力に頼るな。若いうちから楽を覚えたら技術は伸びないからな」


 迷いの森を踏破してきた俺とセレナならこの辺にでるモンスターに負けることはない。

 だが、冒険者にしかわからない独自のルールというのも存在する。今セレナが習っているハーブの摘み方もそうだ。


 ゴブリン討伐にしたって討伐記録は冒険者カードに残るが、倒す場所とかについては指示がない。


 民家近くの平原などにいるゴブリンを倒さなければ被害は抑えられない。

 だが、数をこなすだけならば森に入って洞窟なんかを攻めればよい。


 街に根付く冒険者として多少手間はかかっても皆が喜ぶようにと指導をしてくれていた。


「ありがとうございます」


 そういう事情なのでこちらとしても素直に従っていると…………。


「よし、今ので10匹討伐したな。依頼完了おめでとう」


 ラッセルさんはそう笑いかけてくるのだが、慣れてきても何かを企んでるようにしか見えないのは損をしていると思う。


「こっちもハーブの採集終わったわよ」


 セレナが手を振っている。どうやら問題なく終わったようだ。


「よし、それじゃあ引き上げるとするか」


 ラッセルさんの号令で俺たちは街へと引き返していくのだった。



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