第37話フォレストウルフ

「よし、それぞれのパーティーは完全に視界から外れないように気を付けて進んでくれ。モンスターとの戦闘になった場合は各自撃破。手に負えない相手だと判断したら知らせろ。後続から追い付いて戦闘に加える」


 森の入り口でラッセルさんの声がよく通る。

 冒険者の皆が素直に聞いているのは日ごろのラッセルさんの活動のたまものだろう。


「基本的に北東・北西パーティーには冒険者ギルドの精鋭をだす。今から名前を読んでいくから出てきてくれ」


「普段のパーティーじゃだめなのかよ?」


 冒険者の1人がそう言うと……。


「確かに日頃の連携を重視したいところだが、そうなるとせっかくの戦力を眠らせることになるからな。俺はそんな勿体ないことはしない主義なんだ」


 何やら腹案があるようだ。ラッセルさんはにやりと笑うと……。


「というわけでエルト。お前は北東のパーティーだ!」


 全員の視線が俺に集中した。





「エルト、気を付けてね?」


 セレナが心配そうに俺の手を握り締める。

 彼女はエルフなので、森の地理に詳しい。そのおかげでラッセルさんは中央の自分のパーティーに組み込んだ。


「俺は大丈夫だから」


 周囲の目があるのであまり多くは語らない。そもそももっと少人数でここを抜けてきたのだから問題はない。それぐらいセレナもわかっているはず。


 俺が目でそう訴えかけるのだが……。


「それとこれとは別よ。森はどんな脅威があるかわからないもん」


 どれだけ心配性なのか、俺はセレナの頭を優しく撫でてやると。


「あー、コホン。エルト。お前らをばらけさせたのは悪かったと思っているんだがな……。お前らのイチャイチャぷりは周りの目に毒だ。そういうのは今回の調査が終わったあとで2人きりで宿でしてくれや」


「なっ!」


 ラッセルさんのからかいの言葉にセレナは口をパクパクさせて真っ赤になる。


「じゃあ、俺は前のパーティーに合流するから」


 前を見ると血涙を浮かべた男共が俺が来るのを待っている。これ以上刺激しない方が良いだろう。

 俺はセレナの頭から手を放すと合流しようとするのだが……。


「あっ、待ってエルト」


 セレナが顔を近づけると耳打ちをする。


「つ、続きは宿屋でね」


 そういって離れていった。









「エルト。敵は1匹とはいえフォレストウルフだ! 攻めるよりも守りに徹しろ!」


 目の前には狼型のモンスターがいる。周囲の冒険者が険しい顔をしているので俺は解析眼を使ってみる。



 種 族:モンスター

 個体名:フォレストウルフ

 レベル:104

 体 力:300

 魔 力:88

 筋 力:222

 敏捷度:450

 防御力:278


 スキル:速度増加・チャージ

 備考:俊敏な動きで敵を翻弄する。毛が固く、巨大な身体を利用してのチャージ攻撃が脅威。火の魔法が弱点。


「わかった!」


 レベルにしてみると、俺やセレナに遠く及ばない。

 だが、このフォレストウルフの脅威度はBランクになる。


 Bランクとは同ランクの冒険者がパーティーで挑むことを推奨しているモンスターのことだ。


「後方の魔道士は火炎魔法を頼む!」


 前衛の男は後衛に指示を飛ばすと自らが抑えに回るためにフォレストウルフへと突っ込んでいった。


「このっ! 寄るんじゃねえ!」


 魔法が完成すれば倒せる。ここが気合の入れどころとばかりに剣を振るのだが……。


「グルルルルルル」


 フォレストウルフの敏捷度が高いせいで傷を負わせられない。

 

「エルト頼むっ! 1人じゃ抑えてられねえ! ラッセルさんが認めたっていうお前の力を見せてくれっ!」


 その言葉に俺は前にでる。


「あと少しで魔法が完成します。それまででいいので抑えてください」


 後衛からも緊迫した声が届く。俺たちが抜かれると無防備なところをフォレストウルフに襲われる。最悪な想像がよぎったのだろう。


「任せてくれ。絶対に後ろにはやらない」


 その言葉に反応したのか、フォレストウルフはターゲットを俺へと変えてきた。


「エルト! 行ったぞ!」


 フォレストウルフが突進してくる。これが解析眼で確認したチャージのスキルというやつか。


「グルルルルアッーーーーーー!!!」


 凄まじい威圧感が襲い掛かってくる。だが、ここで避けると後衛へとこいつは向かうだろう。


「させると思うか?」


 俺は剣を横に構えると――


「グアッ!」


 ——フォレストウルフの突進を受け止めた。


「グルッ! ガルッ! グッ!」


 フォレストウルフは足を踏ん張り俺を押し込もうとしてくるが、俺はそれに負けじと押し返してやる。


「フォレストウルフのチャージを受け止めた……?」


「……うそ?」


 前衛の男と後衛の女がありえないという声を出す。


「魔法が完成したら頼むっ!」


 俺がそういうと…………。


「はっ! 完成したわっ! エルト離れてっ! 【ファイアーストーム】」


 後ろから炎の嵐が迫ってくる。火の中級魔法のファイアーストームだ。


「よし、俺の役目はここまでだな」


「グギャッ!」


 俺はフォレストウルフの胴体に蹴りを入れると態勢を崩してやる。

 次の瞬間炎に巻き込まれたフォレストウルフは――


「ギャアアアアアアアアアアアア!」


 悲鳴を上げた。


「よし、後衛は水魔法を頼む。俺達はフォレストウルフが逃げないように囲めっ!」


 ここで逃がすと火事になる。即座に鎮火できるように後衛は水魔法を唱え始めた。


「エルト、鎮火したら突っ込むぞ!」


 まもなく水魔法が完成した。


「【スコール】」


 水の塊がフォレストウルフを直撃し火が消える。


「とどめだっ!」


 前衛の男が飛び出し、フォレストウルフの首を落とすと戦闘が終了した。

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