第24話ウサギの好物は虹色ニンジン

「さあさあ、こっちなのですよ」


 村の連中に生暖かい目で見送られた俺たちは人里に辿り着くことを目的に森を歩く。


「本当にそんな野菜があるの?」


 張り切って前を歩くマリーをセレナは眉をひそめてみる。


「あるのですよ。しばらくここに戻ってこないなら収穫していくべきなのです」


 俺たちは現在、マリーを先頭に歩いていた。それというのもマリーが激レア野菜である虹色ニンジンのありかを知っているというからだ。


 虹色ニンジンとは錬金術の材料に使える高級野菜で、街の外を歩いていると本当にごくまれに1本だけ生えていることがあるレアアイテムだ。


 ポーションなどの効果を格段にアップさせることができる材料な上、普通に調理しても至高の味わいの為、錬金術士とグルメマニアの間で時に奪い合いが起こる。


 そんな食材の群生地をマリーが知っているというので、迷いの森を出る前に採りに行くのが今回の騒動の発端である。


「御主人さまのストックがあれば根こそぎ回収できるのです。旅をするからには美味しい料理を食べるに越したことはないのですよ」


 マリーは目の色を変えながら進んでいく。今はウサギの獣人だからニンジンが好物なのだろうか?


 しばらく黙ってついていくと、開けた場所にでた。


「あったのです。ここなのですよっ!」


 マリーは元気な声を出すと駆けていく。その先には紫色の葉っぱが地面に埋まっていた。


「よいしょっと!」


 マリーはその内の1本を引っ張ると地面から虹色をした物体が現れた。


「ほ、本当に虹色ニンジンだわ!」


 セレナが驚き声をあげた。


「さあ、御主人さま。マリーが採ったこれを食べて欲しいのですよ」


 マリーは俺に近寄ると褒めて欲しそうに耳をパタパタさせている。


「ありがとうな。マリー」


 俺はそんなマリーの頭を撫でてお礼を言うと虹色ニンジンを食べようとするのだが。


「待ってエルト。今水を出すから……」


 セレナは水の精霊に命じ虹色ニンジンを洗ってくれた。泥がとれたニンジンの水気を飛ばす。


「じゃあ、いただくよ」


 初めて食べる高級レア食材。俺はセレナとマリーが見守る中ニンジンをかじった。


「……美味い。野菜とは思えない甘さだな。新鮮だし、すっきりした味わいはこれまで食べてきたどのニンジンよりも上だ」


「マリーも食べるのです。美味しいのです」


「あっ、ずるい。私も…………。美味しいわね」


 2人も口に含んだ瞬間に幸せそうな顔をしている。どうやら気に入ったようだな……。


「もしかしてここ一面全部が虹色ニンジンなのか?」


 森の中にこれ程の広さの平地があるのも驚きだが、見渡す限りに紫の葉っぱが広がっている。


「なのです! ここは全部採集していくべきなのですよ」


「そうね。私もこれ好きだし採っていくべきよ」


 すっかり意気投合した2人。どうやら美味しい物を食べると連帯感が生まれるらしい。


 そうだな、次にいつ手に入るかわからないのだから今のうちに回収しておくことにするか。


 急いで人里に出たいところだったのだが、結局俺もこの食材が気に入った。


 3人でその場の虹入りのニンジンを採りつくすのだった。



・虹色ニンジン×16969


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