第94話ドゲウ完封法
「さて、ドゲウに勝つための方法だが二通りある」
「何故にレオン王子が仕切るのですか?」
パーティーを組むと決めるとレオンが指を二本立てて説明を始める。
「ひとまず聞いてみよう」
「一つ目は狩りをして奴らより多く獲物を仕留める方法」
「……もったいぶった割には正攻法ですね」
ローラは胡散臭そうな表情を向ける。既知の間柄なのか、普段俺に見せるよりも表情が豊かだ。
「もう一つは、奴に獲物を狩らせない方法」
「具体的にはどうするんだ?」
俺が確認すると、レオンは楽しそうに笑うとその手段を口にした。
「奴が使っている弓は【シルフィード】。風の精霊が宿っているお蔭で飛ぶ矢に補正がかかり獲物へと突き刺さる」
確か自分の弓を自慢していたようだがそう言う効果があったのか……。
「俺でもエルトでも構わないから、奴の弓に宿る風の精霊に命じて一時的に力を貸さないようにさせればいい。そうすれば奴の元々の腕前では簡単に獲物を狙うことはできなくなるからな」
よほどドゲウのことが嫌いなのか、レオンは嬉々として提案してきた。
「どうしますか? エルト様」
レオンの説明を聞いて納得したのか、ローラが俺の返事を待つ。
「まず一つ、俺は契約している精霊が離れているから風の精霊に命じることが出来ないんだ」
マリーは今頃お茶会に参加して美味しい物を食べている。呼び戻しても良いのだが、楽しみにしていた様子だったのでそれは可哀そうだ。
「ならそれは俺がやってもいい、それでどっちにする?」
レオンが提示した選択肢について俺はアゴに手を当てて考える。
「今回の賭けの内容、負けたらアリスがあいつの相手をしなければならなくなる」
弓の補正を切るだけでは勝利は確実ではないだろう。
「だから両方で行こうと考えている」
「「両方?」」
俺はレオンとローラに考えている作戦について話した。
★
「くそっ! さっきから全然獲物を発見した報告がないじゃないか! いったいどうなっている!」
ドゲウ王子はいらいらすると、取り巻きに当たり散らした。
「そ、それが……どれだけ探しても獲物が見当たらず……。近くにいる痕跡はあるのですが……」
草木が乱れた痕があるので、生き物がこの周辺にいるのは間違いない。
「あっ、あちらにイノシシがいましたっ!」
「やっとかっ!」
取り巻きが百メートル以上離れた場所で動くイノシシを発見する。
「ここからなら命中補正がかかるから余裕だ」
ドゲウ王子は矢を番えると力いっぱい引き絞り放った。
「「なっ!?」」
これまでなら真っすぐ飛んで獲物を貫いていた矢は明後日の方向へと飛び草の中へと消えてゆく。
「王子、イノシシが逃げますっ!」
気配に気づいたのかイノシシは足早に遠ざかっていった。
「くそっ! どうなっている!」
忌々しそうに弓を見ると、
「こうなったらお前も獲物を探しにいけっ!」
ドゲウ王子は最後に残った取り巻きを怒鳴りつけるとのだった。
★
「さて、結果は見るまでもないな」
狩猟の時間が終わり、俺達はベースへと戻っていた。
お互いの陣地に狩った獲物が積み上げられている。
俺とレオンとローラの陣地には数十体にも及ぶ獲物が山を作っているのだが、ドゲウ王子の方はというと最初に狩れた数匹程度のようだ。
「これで賭けは私たちの勝ちのようですね」
「ぐぐぐぐっ!」
ローラの言葉に顔を真っ赤にして睨みつけるドゲウ王子。
「それで、もし私たちが負けた場合『イルクーツの王女』があなたに付き合うという話でしたが、そちらは何をしていただけるのですか?」
冷たい瞳を向けるローラ。
「一国の王女を好きにしようとして置いて、まさか対価も考えていないわけではないですよね?」
「……ぐぐぐぐ、何が望みだ?」
悔しがるドゲウ王子に、ローラは装備一式の他、国同士の取引の際の利権やらを賭けの清算としてもぎ取るのだった。
「それにしても、お前の方がえげつないこと考えるよな……」
ドゲウをやり込めて戻る途中、レオンは腕を頭の後ろに組みながら話し掛けてきた。
「ローラに探索させて、近くの獲物を追い立てて遠ざけておいて、その上でドゲウが狙いそうな獲物をこっちで掠め取る」
これが俺が提案した必勝方法だった。
レオンが風の精霊を操れるというので、俺が矢を放つのを補正してもらい獲物を仕留める。
そうすればドゲウは一匹たりとも狩ることができないので、勝ちが確定するというわけだ。
個々の力で勝るからこそとることが出来た方法だった。
「それよりローラ、勝てたからいいようなもの。今後はこういう賭けはするな」
城に戻り、部屋へと向かう途中で俺はローラを呼び止める。
「いくら何でもアリスの……一国の王女の身体を勝手に賭けるなんてやりすぎだろ」
アリスがあのドゲウ王子の毒牙にかかっていたかと思うと想像するだけで身震いがする。
「ああ、あの賭けの件でしたらアリス王女ではなく…………」
ローラが何かを言いかけていると。
「あら、お帰りなさい。ローラ珍しい格好をしているわね」
今しがた話に上がったアリスが通りかかった。
彼女はお茶会に参加していたらしく、ドレス姿で化粧をしていた。
「どう、エルト君。ローラは迷惑をかけていないかしら?」
その問いかけに言葉に詰まる。なぜなら今ちょうどこうして問い詰めていたところだからだ。
「私がそのような迷惑かけるわけありません」
そうこうしている間にローラはアリスと話をする。俺がその会話を聞いていると……。
「それよりお姉様こそしっかりしてください」
「お姉様っ!?」
俺の大声に二人は揃ってこちらを向く。
薄桃色の髪にアメシストの瞳。表情こそ違うが、どちらも整った顔立ちをしていて……似ている……。
「言ってなかったかしら? ローラは私の妹なのだけど?」
「そうです、私はイルクーツ王国第二王女のローラです」
さきほどのやり取りが思い出される。ローラは最初からアリスを犠牲にするつもりはなく自分を賭けの対象にしていたのだと気付いた。
「どうしたの、エルト君?」
一気に疲れがでた俺は手で顔を覆うと……。
「いや、なんでもない」
並んでみると似ているこの二人が姉妹だと気付けなかったことに落ち込むのだった。
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