第17話風の谷

「エルト、こっちよ。早く来て」


 数時間後。俺とセレナは強い精霊を求めて村の東へと向かっていた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ……。視界が眩しくてセレナが良く見えないんだ」


 精霊視を覚えてからというもの、周囲を微精霊が飛び回っているのが見えてしまう。そのせいで視界が覆われてしまい、足場の悪い場所を歩くと転びそうになっている。


「そっか……そういえばエルトにはオーラの抑え方を教えてなかったわね」


「オーラの抑え方?」


 俺はセレナの言葉を聞き首を傾げる。


「私達も常にオーラを出しているわけじゃないの。オーラが出ているとそれを好んで微精霊が集まるでしょ? そうすると眼を使うことになって疲れちゃうし。必要がない時はオーラを閉じるのよ」


「でも俺が精霊視を得た時全員光ってなかったか?」


 セレナの説明に俺は首を傾げてみせた。眼が開いた時には全員がオーラを纏っていてそこら中に微精霊が漂っていたのだ。


「それはエルトの為よ。精霊視を覚えるには多くの精霊を視る必要があるから。私たちの村で精霊視を使えるエルフは全員エルトが開眼しやすいようにオーラを出して微精霊を集めていたのよ」


 その説明で納得する。精霊視を覚えるためには微精霊が必要だったが、皆こっそりと協力してくれていたようだ。


「皆にはお礼を言わないとな」


 暖かいものが流れる。俺は心の中で感謝をしていると。


「お礼はいいわよ。エルトが来てからなんだかんだ皆楽しそうだし。この前だって大量の食糧を用意してくれたしね。こっちだって良くしてもらってるんだからおあいこよ」


 自然と笑みを浮かべると、俺はセレナに質問をする。


「それでどうやってオーラを閉じればいいんだ?」


「今エルトの身体からオーラが湧きあがってるでしょ? その全身から出ているオーラを身体の中にとどめるようにイメージしてみて」


 言われるままに行動してみる。すると……。


「うん、いい感じね。オーラが小さくなってきたわ」


 セレナのその言葉とともに視界から微精霊が薄くなり消えていく。


「とりあえずそんなところでいいわね。あまりオーラを消し過ぎるといざというとき精霊を呼び出すのに時間が掛かっちゃうし」


 なるほど、このオーラの出し入れには慣れる必要がありそうだ。


「それじゃあ、動きやすくなったところで改めて行くわよ」


 俺はセレナに従うと迷いの森を歩くのだった。








「ここが風の谷と呼ばれている場所よ」


 そこは螺旋階段がどこまでも深く続いている場所で、一見すると地の底が見えない。


「ここに強力な精霊がいるのか?」


「ここは風の精霊たちが好んで住み着く場所で、下に行けば行くほどに強い風が吹いているの。ここでなら上級精霊にだって会える可能性があるわ」


 下からは「ヒョオオオオオオオオ」と風を切る音が響いている。眼を凝らしてみると緑色をした物体が飛び回っている。それら1つ1つが風の精霊に違いない。


「いい。エルト? ここはどれだけ奥深くまで続いているのか確認したエルフがいない場所なの。降りて行ってこれ以上無理だと判断したら戻るのよ?」


 セレナが真剣な瞳を俺に向けると忠告してくる。俺はその言葉に頷くと。


「ああ、わかった。セレナの判断に従うと約束しよう」


 ここでなら目的の精霊を見つけることができそうだ。


「よろしい。それじゃあ行くわよ」


 俺が頷いたことに満足したのか、セレナは俺の手を握ると階段を降り始めるのだった。




          ★


『また性懲りもなく何者かが力を求めに来たか?』


 自分のテリトリーに侵入する者の気配を感じるとソレは瞼を開いた。


『ヒトは愚かだ。傲慢にも我等を従えられると思っているらしい』


 この世界に顕現してから数千年。これまで多くのエルフがソレの力を欲し谷底を目指した。


『だが、辿りつけた者はわずか』


 下に降りるほどに精霊の力が強くなり、風が吹き荒れている。それに飛ばされないためには並外れた力が必要になる。


『仮に辿りつけてもそれで終わる』


 それでも地の底まで降り切ったエルフは過去に何人もいた。だが、地の底でソレに出会い絶望する。


『今度の侵入者はここまで辿りつけるのか?』


 ソレの興味はそこで尽きた。どうせ自分の元に辿り着いたとしてもどうにもならないからだ。


『分不相応な力を求めるからにはそれなりの代償を与えてやる』


 そう呟くとソレは瞼を閉じた。そのものは数千年の間こう呼ばれていた。



 ――風の精霊王ヴァルゼディ――


          ★

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