第34話王都からの緊急依頼

「よし、今日も討伐依頼完了だな」


「こっちも採集完了よ」


 本日の仕事を終えると俺たちは冒険者ギルドへと引き上げた。


「大分仕事に慣れてきたわね……」


 セレナは俺の横に並ぶと機嫌よさそうに鼻歌を歌っている。


「今日で丁度1週間だからな。毎日これだけ依頼をこなせば慣れてくるもんさ」


 仕事をしてみてわかったのだが、この街周辺に出現するモンスターはたいして強くない。試しに【解析眼】で見てみたことがあるのだが、せいぜいレベル30程度。


 迷いの森にいるモンスターは最低でもレベル100を超えるので俺とセレナにはほとんど危険がなかった。


『マリーも頑張ったのですよ』


「はいはい。マリーも偉いぞ」


「ん。マリーちゃんなんだって?」


 セレナがマリーという言葉に反応する。

 現在、俺はマリーと契約により繋がっている。そのお蔭でこうして頭の中だけでやり取りができるようになっているのだ。


 マリーは人間の前に姿を晒すのを嫌う。なので街中ではこうして頭の中だけで会話をしているのだ。

 俺がマリーの言葉をそのままセレナに伝えると……。


「確かに。索敵から採集品のある場所まで教えてくれるから凄く助かってるわよね」


 マリーのお蔭で俺達は1日に3回の依頼を受けている。

 ギルドの規定で1度に受けられる依頼は1つなのだが、それを完了して時間がまだあるようなら続けて仕事をしてもかまわない。


 大抵の冒険者はそこまで必死に稼ぐつもりが無いので、1日に1度で止めてしまうのだが、俺達は早くランクを上げたいので頑張っていた。


「今回の達成でパーティーランクも冒険者ランクも共にDになるな」


 途中で1度冒険者ランクをEに上げたので今回で2度目だ。Dランクともなれば受けられる依頼の幅も増えるのでこの機会に稼いでおきたいところだ。


「私たち最近注目されてるみたいよ」


 冒険者ギルドに入るとセレナがそんなことを言った。


「そうなのか?」


「それはそうよ、登録して4日でEランクに昇格して、今もまたDランクに昇格するんだから。ここまでの昇格スピードはここの冒険者ギルドでも10位内に入るらしいわよ」


「流石に1位じゃないんだな?」


 迷いの森を踏破してきた俺たちよりも上がいるのは興味深い。


「1位は登録して2時間35分らしいわよ」


「どうやったんだ?」


「登録して速攻で街の外に出てAランクモンスターを1人で倒したらしいわよ」


 それはまたとんでもない奴がいたもんだな。


「なんでも凄いユニークスキル持ちの男でレッドドラゴンを圧倒してみせたらしいわよ」


「それはまた凄いな……」


 度胸もそうだが、レッドドラゴンを圧倒できるなんてにわかには信じられない。


「まあ、俺たちが注目されていることも理解したしさっさとランクを上げおこうか」


 俺はそういうと受付に向かうのだった。





 受付の前が騒がしい。普段は隣接している酒場で自由にくつろいでいる冒険者たちまでがカウンター前に集結している。


『えー、というわけでこの依頼はDランク以上から受けることができます』


 受付嬢が拡声器を使って皆に聞かせている。だが、途中からなのでどうにも内容がわからない。


「よお、お疲れさん。今日も励んできたのか?」


 すると俺たちを見つけたラッセルさんが人をかきわけて近寄ってきた。


「これは一体なんなんですか?」


 元々説明してくれるつもりだったのだろう、ラッセルさんは顔を近づけると、


「王都からの依頼でな、腕が立つ冒険者を集めているらしい」


「王都側にも冒険者ギルドはありますよね? そっちで集まらないんですか?」


 向こうの方が抱えている冒険者の数も多いはずなのだ。


「丁度タイミング悪く新しくできたダンジョンの探索に回っちまっているらしくてな。人手が足りないんだとよ」


「つまり、今回の依頼は急を要するってことなんですね?」


「どうしてそうなるの?」


 俺たちが話しているとセレナが質問をする。


「時間的制限が無ければダンジョンから高ランクの冒険者が戻ってきてからでも遅くないだろ? それなのに他の街の冒険者に声を掛けるということは急がなければいけない事情があるってことだ」


 恐らくこの街だけではなく周辺の街全てに連絡が行っているに違いない。


「そうだ。急ぎってことは報酬もその分上乗せされる美味しい仕事ってことになるな」


 ラッセルさんも俺の推測を指示してくれた。


 もっとも、その分準備が出来ないのでリスクも高いのかもしれないが……。

 俺がそんなことを考えていると、


「エルトとセレナの嬢ちゃん。今、冒険者ランクはどのぐらいだ?」


「これから依頼達成の手続きをしますけどDランクに上がるところですよ」


「ほぅ、流石だな。ということは今回の依頼を受けることもできるってわけだな?」


 確かにその通りなのだが……。


「ねえ、エルト。美味しい依頼ならうけちゃいましょうよ」


 セレナも乗り気のようだ。

 確かに依頼料が高い美味しい仕事なら受けておきたい。


「それってどんな仕事なんですか?」


 だが、それは依頼内容を確認してからだ。


「今回の依頼は国からでかなり大人数の冒険者を投入するらしい。依頼料もそうだが、活躍をすれば兵士に採り立てて貰えるかもしれねえ」


 その言葉で確信する。ラッセルさんたちは依頼を受けるつもりなのだろう。


「いいか、今回の依頼はな……」


 俺たちはラッセルさんの言葉を聞くと驚いた。その内容というのが――


 【迷いの森の調査】



 ――だったからだ。

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