第61話女三人の買い物

「うーん、どっちの服にしようかなぁ」


 目の前ではセレナさんが2着の服を持って悩んでいる。


 私はその様子を観察している。


 スカートから伸びるスラリとした長い足。決して大きいわけではないが、服の上から見てもわかる整った胸。更には誰もが見惚れる幻想的な美しさまで兼ね備えた彼女は完全無欠の美女と呼んでも差し支えがなかった。


 現在、そんな彼女と買い物をしているのだが……。


「ねぇ、アリシア。これと同じ付与の服を持ってきてくれないかしら?」


 カーテンが開くとアリス様が下着姿で現れた。


「アリス様っ! なんて恰好で出てきてるんですかっ!」


「別にいいじゃない、ここは女性専用の防具の店だし、あなたとは一緒にお風呂にだって入ってるんだから」


 アリス様の言う通り、ここは女性専用の防具を取り扱っている高級店だ。

 見た目はお洒落な服の形をしているのだが【自動清浄】【魔法耐性】【物理耐性】などの効果を付与することで従来の鎧と同等の防御力を得る事ができる。


 女性はどうしても力で劣る分敏捷度が必要なので皮鎧や金属プレートなどの防具は中々着けることはできない。なので身軽な防具を買いに来たのだ。


 問題は、制作過程で付与をするのに時間が掛かるため、高額になってしまうという点なのだが、エルトから渡された準備金のお蔭で買うことができる。


「そう言う問題じゃありません! もっと恥じらいを持ってくださいと言っているんですよ」


「まったく。本当に硬いんだから。そんなんじゃエルト君をとられちゃうわよ」


「なっ!?」


 アリス様の言葉に口をパクパクさせる。

 私は何気なくセレナさんの方を見るのだが、彼女は特にきにする様子がない。


「余計なお世話ですっ! 私だってエルトと……」


 話していて身体が熱くなる。昨日のことを思い出してしまったからだ。


「どうしたのアリシア? 顔が赤いわよ?」


「な、なんでもありません。【魔法耐性】と【自動洗浄】ですね、見てきますっ!」


 私はアリシア様から服を受け取ると変わりを探しに店内を移動するのだった。






「それで、セレナさん。少しお話を聞かせてもらいたいのだけど?」


 あれから、それぞれの防具を買って店をでた私たちは近くのカフェへと入ると話を始めた。

 セレナさんは悩んでいた服を2着とも買ったし、私もエルトが好みそうな服を選んでみせた。


 迷いの森への準備は他にもあるのだが、その前に話をしてみたいと思っていたところアリス様が誘った形になる。


「いいけど、条件があるわ」


 そう言ってセレナさんは私を見る。


「あなた、エルトの幼馴染みなのよね?」


「は、はいそうです」


 彼女は顔を赤くして気まずそうに視線を動かすと……。


「私が質問に答える変わりにエルトの昔の話を教えて欲しいのよ」


 その仕草だけでわかった。彼女がエルトを好きなのだと。

 私は複雑な内心を押し殺すと……。


「わかりましたセレナさん。その条件で大丈夫ですよ」


 そう答えるのだった。


「それで、何が聞きたいの?」


 セレナさんはストローに口をつけると私たちに質問を促す。


「私たちが知っているのはエルト君が転移魔法陣を踏む直前までなの。できればあなたがどうやって出会ったのか、ここにくるまでどんなことをしてきたのか話してもらえない?」


 私がもっとも気になっていた部分でもある。


「わかったわ。じゃあ話すわね」


 セレナさんとエルトの間にどのようなことがあったのか。私はコップを握りしめると集中して聞くのだった。




「――それでね、風の精霊王の攻撃から守ってくれたのよ。あの時のエルト格好良かったなぁ」


 うっとりとした様子で語るセレナさん。その瞳はどうみても恋する乙女で……。


「えっと、ちょっと確認なんだけど、セレナさんとエルト君って恋人だったり?」


 アリス様の突込みにセレナさんはストローで飲み物をかき混ぜると。


「ううん、私とエルトはそんなのじゃないわよ」


 その一言にほっと胸を撫でおろすのだが……。


「私が一方的に告白してついてきてるだけだから」


「ええええええええええっ!」


 思わず大きな声がでて立ち上がる。


「ちょ、ちょっとアリシア。目立ってるわよ」


「す、すいませんっ! アリス様」


 私はあわてて腰を下ろす。だけど驚くのは無理もない。目の前の美少女エルフは私よりも早くにエルトに好意を伝えていたのだ。


 震える手でコップを持つと落ち着くために飲み物を口に含む。


「それで、アリシア。あなたもエルトのことが好きなのよね?」


「ムグッ! ゴ、ゴホッゲホッ!」


 急な言葉に飲み物を吐き出しそうになった。私は何とか堪えるのだが、そのせいでむせてしまった。


「きゅ、急に何を言うんですかっ!」


 涙目になりながらも私はセレナさんを睨みつけた。


「出会った時からずっと私のことを気にしていたし、何より部屋に入った時の反応を見ればまるわかりだったわ」


 確かに、あの時の私の挙動は怪しかった。顔は真っ赤だったし、取り繕うことすらできていなかった。


「アリシアこそ。もうエルトと恋人関係になってるんじゃないの?」


 そこでセレナさんの真剣な瞳が私を見る。これまでと違い不安そうな表情をしている。彼女も突然現れた私をみて不安になっていたようだ。



「いいえ、まだです」


「そっか……」


 あからさまにホッとした雰囲気を出すセレナさんに。


「だけど昨日告白はしました」


「えっ! なに、アリシア。いつの間にそんなことになっていたのよ!」


 アリス様が横から覗きこんでくる。私はセレナさんを真っすぐに見ると……。


「そっか……アリシアもエルトのこと好きなんだね」


 そうとセレナさんは妙に納得したような笑みを浮かべる。その笑顔を見ると私はなぜか敵意よりも親しみを覚えてしまった。


「セレナさん」


「セレナでいいよ」


 私が呼びかけると、セレナは呼び捨てを許可してきた。私は一度咳ばらいをすると、改めて……。


「負けませんからね」


「うん、私も負けないよ」


 お互いに手を差し出して握手をするのだった。

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