第69話犯罪奴隷

「さて、こいつらだけどどうしようか?」


 全員の身ぐるみを剥いだ上で縄で縛って地面に転がしてある。

 盗賊の無力化を女性陣にやらせるわけにはいかなかったので、すべて俺一人で行った。


「捕まえた盗賊の装備は倒した人の物になるからエルト君の物ね」


 アリスはそういうと積み上げられた装備の数々をみた。


「とはいっても、俺一人で倒したわけじゃないし」


 見たところ凄い装備があるわけでもないし、盗賊が使っていた装備ということもあり、あまり手元に置いておきたくない。


「私はいらないわ。エルトにあげる」


「私も不要ね。まさか店に売りに行くわけにもいかないし」


 セレナとアリスがそれぞれ分け前の分配を拒否してくる。俺はどうするか考えながらアリシアを見るのだが……。


「わ、私は何もしてないから受け取れないよ!」


 慌てた様子で手を大げさに振って断ってきた。装備についてはとりあえず後で考えよう。俺は盗賊たちを見ると……。


「それにしてもこいつらどうするかな?」


 大半の者はアリスとセレナにやられて気絶している。だが中には意識があったり痛みでうめき声をあげている者もいる。


 そいつらは俺がじっと見ていると何やらビクビクと身体を震わせていた。


「盗賊たちは街の兵士に引き渡せばお金になるわよ」


 俺がどうするか考えていると、アリスが指をぴっと立てて説明をする。


「こんな盗賊なんてどうするの?」


 セレナが興味を示したのかアリスに質問をした。


「えっとね。ほぼすべての国で共通の法律があるんだけど、犯罪を犯した人間はその罪の重さに応じて懲役中は奴隷へと身分を落とされるのよ」


 その話は俺も聞いたことがある。

 奴隷におとされた人間はその懲役期間中、未開拓の土地であったり鉱山だったり。とにかく肉体的に、精神的にきつい場所へと送られる。


 そこで国の管理の元、過酷な労働をさせられるのだ。


「というわけで、国に引き渡せばエルト君は盗賊たちの懲役期間中の報酬を得ることができるって訳なのよ」


 アリスがセレナに人間社会の仕組みについて説明するのだが……。


「でも、エルトお金なら一杯あるよね? ここまで来て引き返すのも面倒じゃない?」


 セレナは首を傾げるとそう言った。


「確かにな。この人数を連れて引き返すとなれば来た時の数倍は時間が掛かる」


 ましてや盗賊たちの装備もあるのだ。中に詰め込んだだけで荷物が一杯になるので俺やアリシアも歩かなければならないだろう。


「だったら殺しちゃう?」


「えっ、アリス様! こ、殺すんですか?」


 アリスがそう言うとアリシアがぎょっとした顔でアリスをみた。


「仕方ないわよ。これまで被害にあった商人や女の子のことを考えたら……ね」


 このまま野放しにするという選択肢は俺にもなかった。

 自分が見逃したことで新たな犠牲者がでる可能性は捨てきれない。


 国に引き渡さないのなら殺してしまうのが一番手っ取り早いだろう。


「そ、そうですよね……」


 アリシアも表情を険しくした。無理もない。彼女はこれまで多くの人間の怪我を癒してきた。犯罪者とはいえ目の前で手を下すところを見たくはないのだろう……。


「エルト君どうするの?」


 そんなアリシアをよそにアリスは決断を迫る。このメンバーのリーダーは俺だと認識しているからだろう。


「アリス。城の偉い人に手紙書いてくれないか?」


「いいけど、どんな文面で?」


「『盗賊たちを捕まえたから引き取りに来てくれ』と」


「それは構わないけど、王国に引き返すにしても時間がかかるんじゃ?」


 アリスは誰かが馬車に乗り王国まで手紙を届けるのだと思ったようだ。


「いや、それはについては問題ない。……マリー」


「はいなのですよ!」


 俺が呼ぶとマリーが姿を現した。


「マリー。手紙ができたら城にいる宰相さんに届けてくれ」


「えぇ……。御主人さまから離れて人族に……なのです?」


 とても不満そうな顔をするマリー。


「すまないが、頼めないか?」


 マリーの人族嫌いを知っているので酷な願いだとはわかっている。俺はマリーにお願いをすると……。


「ご主人さまの頼みはことわれないのです。ささっと行って戻ってくるのですよ」


 意識をきりかえたのかそう言ってくれる。


「ありがとうな」


 俺はマリーの頭を撫でると、


「えへへへ。御主人さまのお役に立てるならそれがマリーの幸せなのです」


 身体をスリスリと寄せてきた。


「エルト君。手紙を書けたわよ。ついでに盗賊の装備も回収してくれるように書いておいたわ」


「気が利くな」


 これから迷いの森に行くのだから荷物は軽い方が良い。


「それじゃあ、マリー頼んだぞ」


「はいなのです。では、行ってくるのですよ」


 マリーは浮かび上がると空を飛んで行った。あの様子なら直ぐに戻ってくるだろう。



 その後、数十分ほどで戻ってきたマリーから「すぐに人を寄越すと言っていたのですよ」と返事を聞いた俺たちは、盗賊たちをマリーの結界で閉じ込めると迷いの森へと進むのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る