第73話シルバーサーペント

「御主人さま。この先にモンスターがいるのですよ」


 ウサミミをピクピクと動かすとマリーは俺に忠告をしてきた。


「皆、どうやらモンスターがいるようだ」


 俺がそう伝えると皆が一斉に振り返る。


「マリー相手はどんなモンスターなのかわかるか?」


「これくらいはありそうな巨大な蛇なのです」


 マリーはそう言うと俺から手を離し、大げさに手を広げ大きさを表現して見せた。どのぐらい大きいのかいまいち伝わってこないのだが、一生懸命伝えてくるのでとりあえず頷いてみる。


「でかい蛇といえばシルバーサーペントかしら? 魔法をはじく銀色の鱗があるはずなのだけど……」


「確かに銀色の鱗をしているのです」


 アリスの推測をマリーは肯定する。どうやら伝わったらしい。


「シルバーサーペントは数メートル程の体長を誇る蛇で、人を丸呑みできる口を持つのよね」


 アリスは俺たちに説明するためにそう言った。


「それってこの辺でも結構強いモンスターよ。私たちエルフの村でも人数をかけて狩ったことがあるわね」


 セレナが思い出したかのようにそう言う。エルフ村の戦士たちはフィルを筆頭に強者が揃っているのだが、それでも大人数で戦ったという。


「どうやらこちらに気付いているようなのです。真っすぐ向かってきているのですよ」


 マリーの言葉に俺は剣を改める。そのぐらいのモンスターならとっとと倒して先に進めばいいだろう。そう考えていると……。


「まって、エルト君」


 前に出て迎え撃とうとしている俺に、


「そのモンスターの相手は私にやらせてくれないかしら?」


 アリスは討伐を志願した。





「アリス様。支援魔法をかけます」


 アリシアの杖が輝く。俺が与えた【神杖ウォールブレス】は凄い魔力を発すると。


「かの者に光の祝福を。【ブレッシング】」


 アリスの身体輝く。彼女は自分の身体を見つめると……。


「その杖凄いわね。旅の間にもアリシアの魔法で支援してもらったことがあったけど威力が段違いだわ」


「いいか、油断するなよ? 相手は迷いの森のモンスターだからな。危険だと判断したら中断させる」


「わかってるわよ。エルト君は心配性ね」


 アリスはクスリと笑うと前を向く。


「セレナも出来る限りの援護を頼んだぞ」


「わかってるわ。精霊に命じて動きを阻害させるぐらいはやるわよ」


 アリスの提案に俺は条件付きで許可をだした。

 シルバーサーペントの討伐はアリシアとセレナを含めた3人で行うこと。アリスは俺の故郷の王女なのだ。一人で挑ませて大怪我を負わせてしまったら不味い。


 それに、これは良い機会だった。

 ここまでマリーに頼ったせいかモンスターを迂回し続けてきたのだ。結果としてアリシアは戦闘経験を積まないままここまで来ている。


 今後のことを考えるなら戦闘をしてレベルアップさせる必要がある。

 アリスが前衛をやってくれるというのなら都合が良い。


 遠くから草木を搔きわける音が近づいてくる。

 恐ろしい速度で迫り寄ってきたそれは俺たちの前に現れると、


『シャアアアアアアアアアアアアアアアアアア』


「きゃああああっ! で、でかいじゃないっ!」


 アリスの悲鳴が聞こえる。

 彼女の目の前には数メートルどころか十数メートルはありそうな巨大なシルバーサーペントが身体を起こして見下ろしていた。


「そう? この辺のモンスターは全部このぐらい大きいわよ」


「どうやら迷いの森に対する認識がまだまだ甘かったようだな」


 アリスは出てくるシルバーサーペントが普段のフィールドで遭遇する通常サイズだと思っていたようだが、伊達にここは迷いの森と言われていない。


 人間の侵入を阻むため、強力なモンスターが存在しているのだ。


「どうするアリス。ギブアップするなら今の内だぞ」


 慌てるアリスに俺は声を掛けるのだが……。


「ここまで言ったんだから後には引かないわよっ! 大きくなっても蛇は蛇じゃないっ! やってやるわよっ!」


 そう言うとスラリと剣を抜く。


『シャアアアアアアアアアアッ!』


 シルバーサーペントも目の前のアリスを得物と認識したのか瞳を光らせた。


『シャアアアアッ!!!!』


 そして、口を開くと凄い勢いで顔が伸びアリスに迫る。


「アリス様っ!」


 アリシアの悲鳴が聞こえる。完全に想定していなかった動きを見せたシルバーサーペントがアリスを丸呑みにしようとする瞬間。


「エルト君より遅いわね」


 アリスは余裕の笑みを浮かべる飛び上がりシルバーサーペントの攻撃を避けた。

 地面が抉れ先にあった木にシルバーサーペントが噛みつくとその木を噛み砕いた。


「どうやらアリシアの支援魔法が思っているよりも強力みたいね」


 あきらかにこれまで見てきたアリスの動きではなかった。

 どうやらアリシアの支援魔法の威力自体がとてつもない効果を発揮しているようだ。


 アリスは剣を構え直すとシルバーサーペントへと向き直った。

 シルバーサーペントは大木に巻き付くと上から首を伸ばし……。


『シャアアアアアアアアアッ』


 今度は木の上から首を伸ばし襲い掛かってくる。

 上からの攻撃にアリスは苦戦をする。


 剣を振るうが、シルバーサーペントは素早く首を戻すと再び別な方向から襲い来る。


「くっ!」


 変幻自在のその動きに翻弄され敵の間合いに入れないでいると……。


「ウインドショット!」


 セレナの声が響き「ヒュッ」と風を切る音がする。


『ジャアアアアッ!?』


 シルバーサーペントの2つの瞳に矢が突き立った。


「お見事っ!」


 セレナの狙いすました神業を俺は手放しで褒めると。


「今よアリスっ!」


 視界を奪われたことでシルバーサーペントの首が下がりアリスの前まで降りてきた。


「貰ったわっ!」


 アリスは剣をシルバーサーペントの首に振り下ろす。

 生半可な攻撃を跳ね返すと言われるその鱗は次の瞬間……。


 ――スパンッ――


 音を立ててシルバーサーペントの首が地面へと落ちた。


「やりましたねアリス様」


「いい攻撃だったわね」


 アリシアとセレナがアリスに駆け寄って喜ぶ。


「二人の支援のお蔭よ。こっちこそありがとうね」


 アリスが眩しい笑顔を浮かべると、三人はモンスター討伐の喜びを分かち合うのだった。


 

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