第48話引き抜き話
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「しかし、此度の調査は問題だらけだな。宰相よ」
エリバン王国の王はとりまとめられた報告書を読むとそう呟いた。
その書類は調査で起きたことを複数人から聞き取って纏めてある。
大半の人間は迷いの森に出現するモンスターの脅威度が上がっていた点について触れているのだが、とあるグループの人間たちの報告になると内容ががらりと変わる。
「ええ、アークデーモンがこの国を狙っていたという事実もそうですが、名誉ある我が国の兵士が任務を放棄して逃亡したのですからな」
そのグループのリーダーの話によるとアークデーモンが現れ、迷いの森の異常は自分の仕業と言ったらしい。
そして戦闘になろうかというところでグループの纏め役をしていた兵士長が現場放棄して逃げ出したというのだ。
その兵士長は「誰かがアークデーモンの存在を伝えなければならなかったのだから緊急事態だったのだ」と言っている。
だが、その場にいた人間全てが戦わずして逃亡した兵士長を追及していた。
「味方を見捨てて逃げたばかりか虚偽の報告か。アークデーモン相手では無理もないが……」
気持ちはわからなくないが、他の兵士たちからも苦情が出ている。このまま放置することはできなかった。
「それにしても私としてはこちらの冒険者の報告の方が疑わしいですな」
宰相は報告書を指差した。そこには「アークデーモンが出現したので冒険者が討伐した」と書かれている。
「相手は一国を滅ぼすとすら言われる存在ですぞ。一介の冒険者にどうにかできるとは思えませんな」
「だが、証拠の翼があるのだろう?」
国王も宰相もこの目で確認したが、アークデーモンの翼が存在するのだ。
少なくともアークデーモンがその場にいたことは証明されている。
「なので真実のオーブによる審判が必要なのです」
どの報告も非常に疑わしい。だが、国としては事実を知る必要がある。
王国は神殿に虚偽の判定を行うために【真実のオーブ】の貸与と神官の派遣を要請したのだ。
「もし仮にだぞ」
「はい?」
国王の言葉に宰相は相槌を打つ。
「その冒険者が本当にアークデーモンを討伐したというのなら。是非我が国に欲しい」
その冒険者は若い男女だと報告が上がってきている。
「どちらも今回の討伐で冒険者ランクがBまで上がる予定ですな。そうすると外国への移動が可能になってしまいます」
基本的に冒険者に対して国は強制をすることはできない。他国へ渡るつもりでいる場合は引き止める権利が無いのだ。
「もしアークデーモン討伐が真実ならば即座にその冒険者たちを囲い込む必要がある。今のうちに国の空いているポストを調べておけ」
なので国としては好待遇を用意して使える人材を取り込むことになる。
「はっ、既に男爵の地位を用意してございます」
言うまでも無かったようで、宰相は貴族位を既に用意していた。国王は満足そうに頷くのだが……。
「それはそれとして気になることが1つあります」
「なんだ?」
「イルクーツ王国の王女が調査の審議を行う場に自分も参加させるように要請をしてきました」
「…………それは。断ることはできぬのか?」
アークデーモンを討伐したという報告は国力を示す上で必要だ。
真実の場合は各国に宣伝するつもりなので都合が良い。
だが、王国の兵士が逃亡した汚点については身内の恥をわざわざ他国に知らせたくはない。
「イルクーツ側も今回の調査費を出しておりますからな。拒否はできぬかと」
合同調査という名目である以上審議に参加する資格を有しているのだ。ここで拒否をしてしまうと両国の関係上あまり良くはない。
「もしやイルクーツもその冒険者が目当てということはないだろうか?」
アークデーモンを討伐したという噂は既に広まりつつある。
それを知ったイルクーツ側が引き抜きに来た可能性はある。
「大丈夫でしょう。例えそのつもりだったとしても、ここは我らの手の上です。一国の王女とはいえ与えられた権限に限界がありますからな。どうしてもその人物が欲しいのなら我らが負ける道理はありません」
国の代理と国の代表では決められる物事に差があるのだ。
「……それもそうだな。よし、では真実のオーブが届き次第審議を行うことにしよう」
そう言うと国王と宰相はエルトとセレナを取り込むつもりで予定を立て始めるのだった。
~その頃地下牢にて~
「うう……。なぜ俺がこんな目に合わなければならないのだ……」
かび臭い地下室は陽があたることがなく時間の感覚がなくなってくる。
「だいたいアークデーモン相手だぞ。誰だって逃げるだろうが」
逃げ出さないように一日中監視の目にさらされ頬はくぼんでいる。
「憎い……悪意ある報告をしたあの若造め……」
そんな状態でもクズミゴは目をギラつかせると憎しみを瞳に宿らせている。
「奴だけは絶対に許さない。例え俺がどうなろうとも……」
「うるせえぞっ! このゴミクズっ!」
見張りの兵士が格子を蹴る。
「エルト。あいつだけは殺してやる」
その言葉はクズミゴのみに聞こえるのだった。
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