第76話邪神の城
「……ここが、邪神が住んでいた城なの?」
目の前に建っている数メートルの壁を見るとアリスはそう言った。
「エルトがいないと到着できなかったわね。本当に村の近くにこんな場所があったなんて……」
セレナが複雑そうな表情を浮かべる。
城の敷地に入る1キロ程手前でマリーが結界の存在を知らせてきた。説明によると城を中心に円を描くように広がっているらしく、生き物は本能的にこの範囲に近寄ることができないらしい。
以前来た時には気付いていたらしいのだが、今回別な方角から近寄ってみて同じような距離で結界反応があったので確信を得たらしい。
俺たちだけならば普通に侵入できるのだが、ここにはセレナにアリシア、それとアリスもいる。
強力なモンスターが徘徊する場所に置いていくわけにもいかず、考えたすえ結界を壊すことにした。
だが、邪神が張った認識阻害の結界はこれまでのどの結界よりも強力らしく、流石のマリーも簡単に壊すことはできない。
アリシアの杖を借り受けて全力を振り絞ってどうにか壊した程だ。
マリーは全力を使ったせいで疲労してしまい、今は奥に引っ込んで眠っている。
「えっと、どこから入るのかしら?」
セレナが大きな壁を見ながら困惑している。
「壁伝いに進めば門が見つかるはず。まずはそこへ行くとしよう」
「ここでこの指輪を使えばいいのね……?」
しばらく歩くと、門が見えてきた。エルフの村と邪神の城の位置関係を考えるのなら、以前俺が脱出した場所にあった門だろう。
この門の先にはステータスアップの実が生っている木があるはずだ。
「使うといってもどうやってなのかな?」
アリシアが首を傾げる。門には鍵穴のようなものは存在しておらず、使おうにも使い方がわからないのだ。
「何か合言葉があるとか? 『偉大なる挑戦者よ。入場せよ!』みたいな?」
アリスが頭を悩ませると苦し紛れに言葉を発する。日頃から書物を読んで勉強しているらしく、あてずっぽうではないのかもしれない。
セレナが鍵穴を探して門に手で触れて引っ張っていると……。
——ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――
「嘘っ! まさか正解!?」
目の前で門が開き始めた。
しばらくすると門が完全に開く。
「流石に合言葉のお蔭ではないと思うが……」
指輪を保有したセレナが近寄ったからだろう。そうでなければ合言葉で開けられるということになってしまう。
「どっちでもいいわよ。早く中に入りましょう」
セレナにせかされると俺たちは邪神の城へと足を踏み入れるのだった。
「ここが邪神の城なのね。思っているよりも綺麗。庭の手入れはどうやっているのかしら?」
アリスはキョロキョロと周囲を見渡しては城を評価している。
「さてな。邪神は俺が滅ぼしたし、そもそもあの邪神が草木の手入れをしていたのかどうか……」
ジョウロやスコップにハサミをもって水やりや剪定をしている姿を想像するとあまりにも異様だ。
『多分、なんらかの魔法装置を使って手入れしているのです。この場に縛られた精霊の力を感じるのですよ』
「マリー。もう復活したのか?」
『まだ疲れているのです。だけど、索敵とか最低限の仕事はさせてもらうのです。安心して欲しいのですよ』
疲れているだろうに健気なことを言う。
「わかった、だけど無理はするなよ。なんならここで休んでからでも構わないんだからな」
『はいなのです。やっぱり御主人さまは優しいのです。大好きなのですよ』
その言葉を最後に沈黙する。
「マリーちゃんなんだって?」
セレナが聞いてくる。
俺とマリーが会話していたのがわかったのだろう。
「ここの手入れは何らかの魔法で縛られている精霊の仕業らしい」
「そう……ならその精霊も解放してあげられないかな?」
エルフは精霊を良き隣人として扱っている。邪神が滅んだあとも強制的に使役されこの地に縛られていると聞いて眉をひそめた。
「そうだな、マリーが回復したらになるがどうにかできないか探ってみるか」
「エルト。ありがとう!」
するとセレナは満面の笑みを浮かべた。
あれから、本来の目的であるステータスの実の収穫をしていた。
木に登るのに慣れているセレナはスルスルと登ると、果実をもいでは下にいるアリシアにパスをしていた。
「エルト君。ここに積んでおくね」
「ああ、ありがとう」
目の前には鎧を脱いだせいで肌に密着した服をきたアリスがいる。薄い布地のわりに魔法が付与されていて防御力は高いらしいのだが、その露出は今の俺にとっては目に毒である。
「それにしても木登りなんて初めてやったけど楽しいわね。もう一回行ってきていいかしら?」
「落っこちて怪我するなよ?」
「平気よ。エルト君が治してくれるもんね」
ウインクをして立ち去った。以前、怪我を治したことがあるのであてにされているらしい。
「それにしても王女にしては気さくというか……」
俺はアリスが持ってきてくれた果実をストックへと収納していく。
こういった雑務までやってもらうつもりは無かったのだが、本人が楽しそうにしているので気にする必要はないのだろう。
「しかし、どうしてあそこまで気安く接してくるのか。逆に怖いんだけどな……」
アリシアの知り合いというだけではない距離の近さに俺がぽつりと呟くと……。
『あの人普通にいい人だと思うのです。マリーは見ていたのですよ』
マリーが話しかけてくるのだった。
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