第108話 成長促進
ひたすら光の微精霊を生み出すための魔力を練り続けている。
最初は全力を振り絞っても数匹しか呼び寄せられず魔力が尽きていたが、一週間が経ちそれなりに上達した。
魔力が尽きたらパーフェクトヒールで回復して繰り返す。
これができるお蔭で、従来の何倍もの速度で技術を覚えつつある。
(それにしても、誰が呪いを掛けてきたのやら?)
実のところ、クラーケンとの戦闘の最中、何度か身体の動きが阻害されているのを感じた。
最初は気のせいかとも思ったのだが、右腕や左足に枷が着けられたかのようで、実力を十分に発揮できなかったのだ。
(相手が悪魔族とも限らないんだよな)
俺は先日、エリバンでアークデーモンを倒している。
奴は「上からの指示で国家転覆を目論んでいた」とはっきり告げていた。
普通に考えるなら、悪魔族が探りをいれてきているのだろうが、これまでの様子から人間の中にも悪意を持って接してくる者も多い。
貴族や王族ともなれば、暗殺者や呪術師、高度な魔導具などを保有しているので可能性を排除するわけにもいかない。
(敵の存在を疑いたくはないんだがな……)
現在、マリーには容疑者の一人を見張ってもらっている。こういう時、姿を隠せる精霊王というのは重宝できる。
「と、そろそろ休憩するとするか……」
気が付けば、魔力が尽きかけていて意識が混濁している。魔力の操作は精神力を使うので、肉体ではなく頭が疲れる。
俺はパーフェクトヒールを使わずに、何気なくステータス画面を開き眺めてみると……。
『成長促進』
新たなスキルが発現していた。
「なんだ……これ?」
どうやらスキルのようなのだが、最近までこのスキルが存在していた記憶がない。
俺はストックしてある『解析』を使用する。
『成長促進』……魔力を込めることで、植物の成長を促進する効果がある。込める魔力が多ければ多い程、良質の植物が育つ。
俺の『農業レベル10』から派生したスキルらしい。原因はおそらく、このところ行っていた微精霊を集めるための訓練だろう。
毎日必死に魔力操作したことにより、農業スキルの上位版を取得できたようだ。
「早速、試してみたいな」
何かないか見回してみる。
ここは、グロリザル城の中庭で、ちょうど近くに掘り起こされた土が見つかる。どうやら花壇を作っている最中らしく、ガーベラの種が詰まった袋が置いてあった。
「これでいいか?」
鉢に土を盛り、種を一つ手に取る。
「えーと、こんな感じでいいのかな?」
俺は種を握り締め魔力を注いでみる。
「うっ……思ってるよりきつい……」
微精霊に与えるのとは違い、割とごっそりと魔力が種に吸い込まれていく。このような小さな種にそこまでの魔力を注げることに驚いた。
「はぁはぁ、ひとまず植えてみるか」
種を鉢に刺し、水をかけてみると……。
次の瞬間、土が盛り上がり芽が生えてきた。
「おおっ! 確かに成長力が促進されている」
普通であれば、芽が生えるまで数日はかかるはずなのだが、一瞬で生えて今も成長している。
植物が育つ姿をリアルタイムで見られるので興味深く観察していると、
「ほほぅ、御主人様。面白い技を使っているのですね」
マリーが空から降りてきた。
「マリーか。あれはどうなった?」
「まったく尻尾を出さないのです。今は上級精霊に見張らせているのですよ」
どうやら空振りのようだ。
「それにしても、基本もまだなのに応用までやっているとは、御主人様はただものではないのです」
「マリーはこれが何か知ってるのか?」
「成長促進なのです。過去に農業レベル10に達した男が使っていたのですよ。その男は【緑の手】と名付けていたのです。あらゆる植物の成長を促進し、本来なら芽を生やせない植物にも作用するのです」
思いのほか詳しい説明に驚く。
「でも、御主人様のスキルが未熟なのでこれが限界なのです?」
マリーは芽に顔を近付けると「うーん」と唸る。
「マリーも手伝っていいのですか?」
「そりゃ、出来るなら頼みたいところだけど、どうやるんだ?」
「この前の授業と同じなのです。マリーがサポートして魔力を流し込むので、御主人様は全力で注ぐのです」
背後から抱き着き魔力の受け渡しをしてくる。
「ささ、てをかざすのですよ」
マリーに言われるままに手をかざすと、光が溢れてきた。
「くっ、眩しい!」
「さあ、御主人様との共同作業なのですよ」
後ろからマリーの嬉しそうな声が聞こえ、光が収まると……。
「く、クリスタルガーベラだと!?」
伝説に聞いたことがある。
数十万本に一本だけ生える硬質の透明なガーベラが存在する。豊かな土壌にしか生えないので、これが生えた土地の土は高額で取引されるとか……。
目の前に咲く花はまさにその伝説級の花だった。
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生贄になった俺が、なぜか邪神を滅ぼしてしまった件 まるせい(ベルナノレフ) @bellnanorefu
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