第44話水浴び
「どうだった?」
テントを出るとセレナが寄ってくる。
その後ろにはラッセルさんを含む冒険者たちがいてこちらを見ていた。
「クズミゴは王国で処罰になった」
俺の報告に皆が「わっ」と喜ぶ。無理もない、アークデーモンを前に1人だけ逃亡したのだから。
「それと、今回の討伐で特に活躍をしたということでラッセルさんを兵士に登用してくれると確約をもらった」
その言葉にラッセルさんのパーティーメンバーが拳を握って喜びを露にした。
「ちょ、ちょっと待てよ! 一番活躍したのはエルトお前だ! それにアークデーモンの動きを止めたのはセレナの嬢ちゃんだろ?」
慌てた様子でラッセルさんが前に出てきた。
「それは違いますよラッセルさん」
自分が手柄を横取りしたと思ったのだろう、表情を歪ませているラッセルさんに俺は言う。
「今回の功績は何もアークデーモン討伐だけを示していないんですよ。あなたは道中ずっと周りの冒険者を気遣ってくれていたし、アークデーモンが現れた時も真っ先に表に立ってくれた。そんなあなただから俺たちはアークデーモンと戦う気になったんですよ」
アークデーモンを倒したのは確かに俺だが、ラッセルさんのこれまでの行いは評価されるべきなのだ。
「そうですよラッセルさん! 話を受けて下さいよ!」
「兵士になりたいって思ってたの知ってますよ!」
周囲の冒険者たちもラッセルさんに声援を送る。するとラッセルさんは頬をかくと……。
「お前ら、恥ずかしいからそれ以上言うな」
照れた様子で皆から顔を逸らす。どうやら受ける気になったようだ。
「これで冒険者ギルドは素晴らしい先輩を失うんだな……」
まだまだ教えて欲しいこともあったのだが仕方ない。俺は目を細めると皆にからかわれているラッセルさんを見ている。
「でも代わりにとっても素敵な兵士さんが1人誕生するじゃない。ラッセルさんなら街の人に愛される素敵な兵士になると思うわ」
俺の言葉を聞いていたのかセレナが嬉しそうに隣へと来た。
いつものように身体を近づけてくるセレナ。この距離感にも最近慣れてきたなと考えるのだが……。
「ん?」
セレナが大慌てで飛びのき俺と距離を取る。そして…………。
「エ、エルト。あなた凄く臭いわよっ!」
涙目で非難をしてきた。
「ああ、そういえば……」
クズミゴに近寄られたので臭いが移ったようだ。
「流石に今のエルトには抱き着きたくない! あっちに泉があるから水浴びをしてきてちょうだい」
セレナの冷たい言葉に俺はクズミゴを恨みながらも泉へと向かうのだった。
★
「ふぅ、水が澄んでて気持ちいわね」
泉にてアリス王女とアリシアは水浴びをしていた。
「それにしても宜しかったのでしょうか?」
今日は調査隊がぼちぼち戻ってくる日なのだ。アリシアはその結果が気になっていた。
「剣を振っていたら汗かいちゃったのよ。それに、流石にこのまま最後までテントの中で待機しているってのも何しに来たかわからないじゃない?」
調査隊を雇っているということで役割は果たしている。
だが、期日が近づくにつれて表情を暗くするアリシアに気付いたのだ。
せめて近場でも外に連れ出して気分転換をさせた方が良いとアリス王女は判断した。
「にしてもアリス様。無防備すぎではないですか?」
一国の王女がこんな泉で裸体を晒しているのだ、覗かれたらどうするのか?
「平気よ。人が入ってこれないように認識阻害の結界魔法を発動しているから」
見る者全てが見惚れるようなプロポーションを見せつけるアリス王女にアリシアは自分の身体を見比べてみる。その動作で何を考えいるのか察したアリス王女は……。
「あなたの身体だって綺麗よ。私は剣を振っているから全体的に引き締まっているけど、あなたみたいに柔らかい身体をしている方が男受けするんだから」
実際、アリス王女とアリシアを並べてみてもそん色はなく、どちらも男を引き付ける身体をしている。
アリシア王女の言う様にあとは好みの問題だろう。
「本当ですか……?」
「あら、疑うのなら例のエルト君の前に二人で立ってみましょうか? それでアリシアが選ばれたら私の勝ちってことでいいわよね?」
「それって、アリス様が負けたらエルトがとられちゃうじゃないですか!」
嫌な予感にアリシアは顔を青くする。そんなアリシアをみてアリス王女は笑っているのだが…………。
「どうしたんですか?」
アリス王女の真剣な顔にアリシアは気付く。
彼女はじゃぶじゃぶと水をかき分けると剣を手に取り慌ててマントを身に着けた。
「誰かが結界を破って入ってきたわ」
その言葉にアリシアは驚く。アリス王女は王国屈指の実力者で魔法の腕も超一流だからだ。
「な、何者でしょうか?」
「少なくともベースにいた騎士ではないわね」
彼らの実力は把握している。とてもではないがアリス王女の認識阻害結界を打ち破れるとは思わない。
「アリス様。私も援護します」
そういってマントを纏ったアリシアだったが。
「あなたは念のためにベースに戻って人を呼んできて頂戴」
何者かは知らないが結界を破ったということは目的は自分だろう。
彼女はそう見当をつけると追加戦力を欲した。
こういう時、これ以上アリス王女に言っても無駄と悟っているアリシアは……。
「わかりましたっ! すぐに皆を連れてきますからっ!」
アリス王女を信じてその場を離脱するのだった……。
★
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます