第66話再び迷いの森へ

「特に準備はいらないから正門に集合っていうから来てみたけど、ほとんど手ぶらじゃない」


 エリバン王国の北門を出るとアリスが形の良い眉をひそめた。


「なんでいるんだ?」


 動きやすい服装に美しい魔法剣を腰に差したアリス。俺がアリシアとセレナに指示をしておいた服装のまんまだな。


「それは私も行くからに決まってるじゃない」


 アリシアと目を合わせると困った顔をして申し訳なさそうに頭を下げた。

 どうやら一応止めようとはしたみたいだ。


「いや、初耳なんだけど……?」


 俺は自分の頬を掻きながらアリスの様子をみる。

 どこかで誘うような言葉を口にしたのか?

 酒を呑んでいないのに記憶が飛ぶようなことはあるのか、などなど考えていると……。


「え? 昨夜、食事をしている時に今日の予定について話していたわよね?」


 まさかそれだけで誘われていると思ったのだろうか?

 いや、流石にそれはないだろう。だとすると準備が良すぎる。おそらく先日予定を話した時点で決めていたのだろう。


「あれはセレナとアリシアに向かって言ったわけで、第一お前は王女だろ? 公務とか無いのか?」


 仮にも一国の王女なのだ。城にとどまっていれば国益のための誘いはいくらでもあるだろう。

 整った見た目や人当たりの良さからしてお茶会でも開けば参加者が集まってしょうがないだろう。俺はそう提案をするのだが……。


「あいにく、私はティーカップを握るよりもこっちを握って振ってる方が好きなのよね。エルト君のお披露目パーティーまで我慢していたらストレスで死ぬわよ」


 普通王女というのはもっとお淑やかなものなのではないのか?

 だが、言うだけあってアリスの実力が確かなのは俺が知っている。


 実際、あれほど鋭い剣を受けたのはフィル以来だ。


「ねえエルト。エルトの能力は秘密なんだよね? 手荷物がないとエルトの力がばれない?」


 そんなことを考えていると、セレナがひそひそと耳打ちをしてきた。

 確かに迷いの森までの旅と考えると荷物が少なすぎる。これでは野営の準備どころか食糧も足りていない。


 セレナとアリシアは俺のストックを知っているから問題ないだろうが、アリスには奇異に映ることだろう。


「そのことなら心配ない。これを使うからな」


 俺は嵌めている指輪に魔力を通すと馬車が出現する。


「えっ、これってエセリアルキャリッジじゃない!」


 驚いた顔をするアリシアの反応に俺は満足する。

 エセリアルキャリッジは具現化していない間は指輪の中へと収納される。

 待機状態は使用者の魔力を吸うことで具現化した時に動かすことができる。


 だが、これがなかなか魔力を使うらしく、魔力の補充が本来ネックになるのだが、俺はかなりの魔力を保有しているので問題はなかった。


「流石に歩いていくのは時間が掛かるからな。昨日ラッセルさんと買いに行ってきたんだよ」


 既に必要な荷物は積みこんであるし、もし足りないものがあったとしても積荷から取り出すふりをしてストックから出せばいい。


「さあさあ、時間が惜しいから乗り込んでくれ」


 そう考えると俺はセレナとアリシアを促した。


「わかったわ。じゃあ私が御者やってみてもいいかな?」


 セレナは魔法生物の馬が気になるらしく御者台へ。


「疲れたらいつでも回復するからいってよね」


 アリシアは荷台へと入って行く。

 二人の間にぎこちなさはなくお互いに認め合っているように見える。


 どうやら昨日二人で買い物をしたのが良い方向へと転がったようだ。


「えっと、その……」


 何やらアリスがもじもじとしている。置いてきぼりをくらいそうな子供のような表情だ。


「え、エルト君……あのっ、私も……」


「ほら、アリスもさっさと乗れ」


 俺がそう促すと……。


「い、いいの? ついていって?」


 目を大きく見開いた。


「ただし、ついてくるなら王女として扱うつもりはないからな。野営の準備もしてもらうし、モンスターとも戦ってもらう」


 お客様気分でわがままを言われては困るのだ。

 俺の釘をさす言葉を聞いて、アリスはなにやら嬉しそうな表情を浮かべると……。


「うん。ありがとう」


 そう言って荷台に入って行くのだった。

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