第74話エルフの村へ帰郷
「おお、セレナよ戻ったのか!」
「父さん。ただいま」
目の前ではセレナとヨミさんが抱擁をしている。
「エルト、セレナを泣かせていないだろうな?」
その光景を見守っているとフィルが声を掛けてきた。その瞳はどこか疑わし気に見えるのは気のせいだろうか?
現在、俺たちは何日もかけて迷いの森を進み、エルフの村へと到着したところだ。
どうせ迷いの森にきたのならこの機会にセレナを里帰りさせてやりたいと考えて立ち寄ってみた。
「勿論だ。仲良くやれていると思う」
人数が増えたことで人間関係に変化があるとは思っていたが、セレナはアリスやアリシアとも仲良くなり、夜も雑談などをしていた。
「美形が一杯いるわね。流石エルフというところかしら」
「エルフは人族が嫌いと言ってましたけど、エルトは普通に受け入れられてるんですね」
俺がフィルと話をしていると、アリスとアリシアは興味深そうに村を見渡していた。
「そういえば土産があるんだ。広場を借りてもいいか?」
「うん? 構わないが」
俺たちは広場へと移動する。ここは俺の歓迎会や送別会をひらいてくれた場所なのだが、現在はテーブルや椅子が片付けられ広々としている。
「汚れると思うから敷物があると嬉しいな」
「わかった、ちょっと待っていろ」
数人がかりで準備をしてもらうと、俺はそこにシルバーサーペントの死体をだした。
「これは、シルバーサーペントか。中々見事な切り口だな。流石エルトだ」
綺麗に首を切断しているシルバーサーペントを見たフィルが感心した声をだした。
「ああ、それは俺がやったんじゃない。あっちのアリスがやったんだよ」
「なんだと? エルト以外にもこんなことができる人族がいるのか!?」
目を見張るとアリスをみる。アリスはそんなフィルの視線に気づいたのかペコリと頭を下げて見せた。
「皆、このシルバーサーペントはセレナとあっちの二人が仕留めたものだ。友好の証に受け取ってほしい」
エルフは人族をあまり良く思っていない。俺はセレナを助けたりしたきっかけがあり村で受け入れられたが、アリスとアリシアが受け入れてもらえるかわからない。
セレナに相談をしたところ、この提案をされたのだ。
「こりゃ凄いな、久々に今夜の宴会は御馳走になりそうだ」
「捌くための包丁を持ってこなきゃ。シルバーサーペントなんて十年振りじゃない?」
浮かれた様子でシルバーサーペントの解体を相談し始めるエルフたち。どうやら作戦は成功したらしく、エルフ娘の何人かがアリスとアリシアに近寄っていき話をはじめた。
その光景を見ていると……。
「あの二人は何者だ? お前とはどういう関係なんだ?」
ちょっと前にセレナと旅立った俺が同行者を増やして戻ってきたのだ、不思議に思うのも無理はない。
「もう一人の方がアリシアといって俺の幼馴染みなんだ。彼女は行方不明になった俺を占いを頼りにここまで探しに来てくれたんだよ」
「なるほど、そういう関係か」
「なんだよ?」
妙に納得した様子のフィルに俺は眉をひそめる。
「いやいや、お前があの子とくっつけばセレナは諦めて戻ってくるんじゃないかと思ってな」
どうやらまだ諦めていないらしい。俺はフィルの願いが叶うことはないと思いながらため息を吐くのだった。
「それでは。セレナとエルトの帰郷と新たに村を訪れたアリスとアリシアを歓迎して乾杯!」
「「「「「かんぱーい」」」」」
夜になるといつものように宴会が開かれる。今夜のメインディッシュは三人で仕留めたシルバーサーペントの料理だ。
「美味いのです。思っているよりも脂が乗っていてツルリと入るのです」
「精霊王様。こちらもお食べ下さい」
料理が置かれたテーブルではマリーが早速料理に舌鼓を打っている。
「いただくのですよ」
エルフは精霊を良き隣人と思っている。マリーは風の精霊王なので崇拝の対象なのだ。
「へぇ、思ってるより上品な味なのね」
「濃いめのタレを塗って生地で挟むともっと美味しいかもしれませんね」
アリスとアリシアも満足そうだ。俺もどんな味がするのか気になったので食べてみる。
「確かに美味しいな」
どうやら硬いのは鱗だけらしく、身のほうは簡単に噛みしめられるぐらい柔らかい。噛むと口の中にシルバーサーペントの脂が広がり旨味を感じる。
酒とよく合いそうな味をしている。俺は酒が欲しくなり、酒の置いてあるテーブルへと向かった。
そこには俺がエリバンの王都で買っておいたワインが置かれている。
エルフの村のお酒も美味いのだが、どうせなら人族が作った酒を呑ませてみたいと思ったからだ。
それなりに値が張るワインを選んだのが良かったのか、エルフの皆も美味しそうに飲んでいた。
セレナは以前のお酒で懲りたのかほどほどにワインを楽しんでいるし、アリシアは他のエルフの娘たちと楽しそうに話をしている。
二人ともこの場を楽しんでいるようで、俺も場の空気を楽しみながらフラフラと歩いていると……。
「いけえっ! フィルっ!」
「なんのっ! 飛び入りの嬢ちゃんも負けるなっ!」
応援する声が聞こえたのでもしやと思って行ってみると……。
「はぁはぁ。やるわねっ!」
「そ、そっちこそっ!」
フィルとアリスが試合をしていた。
「エルトから話には聞いていたが流石はシルバーサーペントを倒しただけはある。俺がここまで追い込まれたのはエルト以来だ」
「そう、奇遇ね。私を負かしたのは後にも先にもエルト君だけよ」
アリスはそう言うとフィルを挑発した。
「言ってくれるな。俺だってエルトが去ってから遊んでいたわけじゃないんだぜ。目の前で最愛の妹を連れ去られたからな、いつかあいつに復讐するために腕を磨いたさ」
「それはご愁傷様。でも、私も負けられないからっ!」
「なっ!」
アリスはフィルの隙をつくと距離を詰める。
「くそっ!」
フィルの鋭い剣がアリスを捉えるのだが。
「当たらないわ」
アリスはどこに攻撃が来るのかわかっているかのように全て紙一重で躱してみせた。そして……。
「はい、終了」
息を切らしながら安堵してみせると舞台から降りてきた。
「あら、エルト君じゃない。見てたのね?」
「凄いじゃないか。フィルはこの村一番の剣士なんだぞ」
俺の剣の師匠でもあるので、フィルの腕前は俺が一番知っている。アリスは不敵に笑うと……。
「ええ、だから私は勝てたのよ」
俺がそう説明するとアリスは意味深なことを言う。
「どういうことだ?」
「彼の動きはあなたにそっくりだったもの。あなたの速度を知っている私からすると同じ動きをする相手は読みやすいわ。彼の剣が初見ならここまで踏み込めなかったけどね」
「大したもんだな」
俺の剣の動きを覚えているのもそうだが、実戦で躱して見せる度胸も凄い。
「言ったでしょう。あなた以外に負けるつもりはないって」
そんな俺の誉め言葉にアリスは満足げに笑って見せるのだった。
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