第11話精霊視の覚え方

「いやー、たいしたやつだよお前!」


「まさかフィルが負けるとはな。乾杯しようぜ!」


「おい酒が足りねえぞ!!」


 ステージを降りるとエルフたちが上機嫌で俺の肩を抱いてきた。どうやら今の模擬戦で俺のことを認めてくれたようだ。


「何言ってるの、もうお酒なんて残ってないわよ」


 だが、元々予定していなかった宴なので既に酒は底をついているらしい。

 俺はふと考えると…………。


「良かったらこの酒にしないか?」


 ストックの中から3種類のワインを5本ずつ取り出してテーブルに並べる。


「おおっ! 手品みたいだな。珍しい容れ物だが酒が飲めるなら何でもいいさ」


 エルフが嬉しそうにワインを掲げていると……。


「ちょ、ちょっとその酒をわしにも見せてくれんかっ!」


 ヨミさんの声が聞こえた。

 村長のただならぬ様子に俺とエルフの男はワインをもってヨミさんの元へと向かう。


 ヨミさんはワインを受け取るとそれを凝視する。光にかざしたり回してみたり、ラベルの文字を熱心に読んだり。しばらくするとヨミさんは目をカッと開いた。


「こっ……これはっ! 幻のワインではないかっ!」


「幻のワイン?」


「うむ。既に失われた文明のワインじゃよ」


 俺が取り出したのは邪神の城に保管されていたワインだ。まさかそんないわくつきの物だったとは……。


「これがそんなに凄いものなんですか?」


 テーブルの上には【ディアボロスワイン】【バハムートワイン】【リヴァイアサンワイン】が並んでいる。


「世界で5本の指に入る名酒と呼ばれるものが3本もっ! エルフの長い一生の間でどれか1つでも口にすることができたなら強運と言われておるのに……」


 そんな凄いワインだとは知らなかった。

 周囲で酔っ払っているエルフたちもただごとではないと真剣な顔をしている。


「エルト君や。これは大事にしまっておいてなにかの記念日にあけるべきじゃよ。こんな宴会なんかで消費してよい物ではない」


 ヨミさんは優しく俺を諭すとワインを俺に返そうとする。だが俺はそれを受け取らず。


「ならやはり今日あけるべきでしょう」


 皆が怪訝な顔をするなか俺はこの場の全員を笑顔で見渡すと言った。


「今日は皆と出会えた記念日ですから。このワインをあけるのにこれ以上ふさわしい日はないですよ」


 街にいたころはアリシアしか話し掛けてくる相手がいなかった。今日はエルフたちから親しみの視線を向けられ、話し掛けてきたのだ。

 俺がこのワインをこの場の人たち一緒に呑みたいと思うのは当然だろう。


「エ、エルト君……」


 感動した様子をみせるヨミさん。俺はちょっと言い過ぎたかもしれないと思い言葉を追加する。


「そ、それに、こういうお酒は皆で呑んだ方が美味しいですからね」


「ハハッ、違いねえや! よく言った!」


 その後皆でワインを分け合い楽しい時間を過ごした。






「……頭が痛い」


 翌日。目覚めてみるとフィルが左腕を、セレナが右腕を抱いた状態で密着していた。

 どうやらここはヨミさんたちの家のようで、どうやって戻ったのかは覚えていないが俺たちは家に戻るなり力尽きていたようだ。


「うふふふ、エルトぉ……」


「セレナは渡さないぞぉ……」


 兄妹揃って何やら寝言を呟いている。至近距離から見る2人の顔はやはり整っている。昨晩みた他のエルフと比べても別格と言っても良いだろう。


 俺は2人から腕を抜くと……。


「【パーフェクトヒール】」


 魔法を唱えると頭痛が消えた。どうやらパーフェクトヒールは状態異常も治せるらしい。


「一応この2人にもかけておくか」


 恐らく起きたときに頭痛に悩まされるであろうと思ったので俺は2人にもパーフェクトヒールをかけて二日酔いを消しておくのだった。







「なに? 精霊視について教えて欲しいじゃと?」


「ええ。それともエルフの極秘事項だったりするのでしょうか?」


 起床してからヨミさんと会うと俺は昨晩の精霊魔法のことを思い出した。

 剣術とは比べ物にならない威力があるので、習得することができればこの先の旅で役立つと思ったからだ。


「ふむ、確かにエルト君は【魅力】のステータスを持っておるからな。精霊を使役できる可能性はある」


 期待通りの返答に俺は拳を握り締める。


「どうすれば精霊が視えるようになるのでしょうか?」


 この村には全部で100人ほどのエルフが存在しているのだが、実際に精霊を使役し魔法が使えるのは20人程らしい。

 つまり5人に1人は精霊を視ることができるということになる。


 ヨミさんはアゴを撫でると答える。


「精霊を視るには【魅力】を高めることじゃ。ステータスが高ければその【魅力】に惹かれて精霊が集まってくる。精霊視は集まってきた精霊の数が多いほど早く開眼することができる眼なのじゃ。なので魅力が足りないエルフは狩りなどをしてレベルを上げていくうちにいつの日か精霊を視ることができるようになる」


 そう言ってヨミさんは険しい目を俺に向けると。


「エルト君はまだ若い。ここでしばらく修行をしていけばいずれは精霊視が使えるようになるじゃろう。じゃが、その道は簡単ではないぞ?」


 念を押すヨミさんに俺は……。


「なるほど、よくわかりました」


・虹の果実×108(食べると魅力が100増える)


 ステータス画面のある場所を見ながら答えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る