第78話邪神の城③
「この部屋も問題なし」
壁際に本棚があり、正面には木で作られた幅の広い机。
その手前には大型テーブルに座椅子が左右に四つずつ置かれている。
会議室を思わせる内装の部屋がそこにあった。
「それにしてもこれが鍵だったとは……」
セレナから借りた指輪を見て俺は複雑な気分になる。
何故かというと、窓のある部屋のほとんどに鍵が掛かっていたからだ。
もし俺が初めて邪神の城を探索した時、この【福音の指輪】さえ身に着けていれば難なく外に出られたのだ。
当時は目覚めたばかりの【ストック】の能力ばかりに目が行ってしまっていたのだが、こうして鍵の便利さを見せつけられると改めて悔やんでしまう。
俺は溜息を吐くと考える。
ここまで見たなかで変な部屋は見つからなかった。
どちらかというとエリバン王国の城のような、用途が決まっていて設計された構造の建物に見える。
もしかすると、ここは本来は城として機能していて大勢の人間が出入りしていたのではないだろうか?
そんなことを考えながら俺は広間へと戻る。入り口の奥に目立たない部屋があることに気が付いたからだ。
階段の裏にドアが隠されていたので、二階からみていて気付いたのだ。
俺はその部屋のドアを開けて中に入ると……。
掃除が行き届いているこの城にしては珍しくホコリが漂っている。
広さはそれほどでもなく、大人が五人も寝転がれば足の踏み場がなくなるだろう。
「ここは物置か?」
部屋には何も置かれておらず、俺がそう判断をして出ようとするのだが……。
「エルト君?」
後ろから声を掛けられた。
「こんな夜遅くに何をしているのかしら?」
入り口を見ると、アリスが立っていた。部屋の照明に照らされて姿がはっきりと映る。寝るための薄着にマントを羽織っており、腰には剣を差している。
邪神の城ということもあってか警戒して持ち歩いているのだろう。
「そっちこそ、寝てたんじゃないのか?」
「そうなんだけどね、夜中に目覚めてみたらエルト君がいなかったから気になって……」
どうやら俺を探しにきたようだ。
「それで、エルト君は夜中にこそこそと何をしているのかしら?」
「一応危険はないと言った手前見回りをしていた」
鍵が掛かっていない部屋に関しては一度確認済みなので大丈夫なのだが、新たに鍵が手に入ったので今まで調べていない部屋を事前に確認しておいただけのこと。
「あの二人を危険な目に遭わせないため? 過保護ね」
「……別にいいだろ」
本心を言い当てられてむっとする。
目の前のアリスはどこか微笑ましい物を見るような視線を俺に向けてくると。
「エルト君は本当にあの二人が大事なのね。それで、どっちが好きなのよ?」
からかうポイントを見つけたせいか、アリスは俺に近寄ってくると好奇心で聞いてきた。
「べ、別にいいだろ」
「良くないわよ。だって、アリシアは私の親友だし。あの子がどれだけエルト君のことを想っていたのか知っているし」
アリシアは邪神の生贄になった俺が生きていると占いで知り、こうして遠方のエリバン王国まで探しにきた。
再会した際に告白までされたのだが、今は返事をうやむやにしている状態だ。
「エルト君だってまんざらでもないはずでしょう? アリシアにしておきなさいよ」
話している間に熱を帯びてきたのか、詰め寄ってくるアリスに押されて俺はだんだんと部屋の奥に追い詰められ、やがて壁に背をつける。
慌てて左右に逃れようとすると、壁に手をついて退路を断ってきた。目の前にはアリスの顔がある。艶やかな唇に照明を受けて輝く髪。
その顔はセレナやアリシアとはまた別の、洗練された美しさがあり、俺はこんな状況だというのに目を離せなくなった。
「エルト君が答えを出さなきゃあの二人はずっと先に進めないのよ」
第三者であるアリスの忠告に俺は言葉に詰まる。だが次の瞬間……。
「えっ? 地面が光って……」
アリスの首に着けているペンダントが輝き始めた。
「不味いぞ! とにかくこの部屋を出るんだっ!」
何らかの魔法陣が起動しようとしている。俺はアリスにそういって部屋から脱出しようとするのだが……。
「えっ! きゃっ!」
アリスは話を聞いていなかったのか、反応が遅れる。結果として俺たちは身体をぶつけると部屋の真ん中へと倒れこんだ。
「いたたた。え、エルト君何するのよっ!」
全身に柔らかい感触と温かさが伝わってくる。俺はアリスに覆いかぶさっているようだ。
ペンダントはますます輝きを増し、それと呼応するように魔法陣自体も強く光っている。
「もう間に合わないっ!」
何が起こるかわからないが、ひとまずアリスを庇わなければならない。
俺は全力でアリスを抱きしめると…………。
次の瞬間、目の前の景色がブレた。
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