24 兄と弟 下
何が起きているのかは全く分からなかった。
目を覚ましたら隣にアイリスが居て、そんでブルーノ先生が誰か良く分からねえ奴らと戦っていて。
そして……居る筈の無い兄貴がそこに居た。
「お兄さんは……ユーリ君の味方ですか!?」
「敵だよ」
アイリスとそんな会話をする兄貴が。
その会話を、最後まで聞いていた。
分かっている。
多分今はすぐにでも起き上がって動かないといけない状況だ。
悠長に話を聞いている場合じゃない。
この話を遮ってでも動くべきだ。
だけど……そう分かっていても、何故か不思議と、話を遮る気は湧かなかった。
それが何故なのかは分からないけれど……なんとなく懐かしい感じではあった。
そういう、声音をしていた。
最後まで聞かなければならないと思わせるような、そういう声音だ。
そして、そんなにわかには信じがたい話を最後まで聞いたんだ。
「……んだよそれ。話は終わり……じゃねえだろクソ兄貴」
ゆっくり体を起こしながらそう言う。
このままなにも触れずに流す訳にはいかない。
正直そんな話を聞かされて、はいそうですかと納得するわけにはいかねえんだけれど。
できる訳がねえんだけれど。
現在進行形で嫌いで憎くて、ろくでもない奴だとは思っているけど。
それでも。
「……後で時間作れ。今日が無理なら明日とか明後日とかで良い」
それでも一度、俺達は顔を向け会わせて話をしなければならない
「……分かった」
兄貴はその言葉に対して素直に頷く。
ならこの話の続きはその時にすれば良い。
その時色々とぶつければいい。
……だけど今は。
「アイリス、これどういう状況だ? ブルーノ先生は一体何と戦ってんだ」
目の前の状況をどうにかしなければならない。
そして再び強化魔術を発動させる俺にアイリスは言う。
「分からないけど……なんかボクにナイフ向けてきた」
「はぁッ!?」
ちょ、ちょっと待て。
「つまりアイツらアイリスを殺そうとしたっえ事なのか!?」
「人事のように言うなユーリ」
兄貴は言う。
「俺が見付けた時にはお前も意識を失って倒れていた。やられたんだろアイツらに」
「……」
いややられてねえけど?
俺殴り飛ばしたの、目の前で見るからにヤバい白装束の連中と戦ってるブルーノ先生なんだけど?
……まあ話ややこしくなるからこのままでいいか。
「とにかく加勢に入る」
「え、あの中に飛び込むのかい!?」
「……いかねえと不味いだろ」
咄嗟に前に出る。
さっき戦って分かったけど、ブルーノ先生は無茶苦茶強い。
それは目の前で起きている戦いを見て改めてそう思えてくる。
だけど向うの三人もそのブルーノ先生の動きに着いていっていて。
そんな相手を三人同時にしている。
……それも多分、極力こっちに敵が来ないようにする立ち回りでだ。
素人目で見ても分かる。
良くて五分五分。
最悪の場合、目を背けたくなるような事が起きる可能性がある。
……だからこそ、加勢する。
意識を失ってから今に至るまでの間に、誰かが回復魔術で治療を施してくれたのだろう。
真っ先に使い物にならなくなっていた左足首も……なんとか一応動けそうな位には回復していて、他も流石に万全じゃないがある程度はマシになってる。
これでなんとか……、
「待て」
兄貴に腕を掴まれる。
「此処は引いた方が良い」
「は? この状況で先生置いて――」
「良いか。手短に言うぞ」
兄貴は言う。
「……アイツは強い。そう簡単には負けない。だったらまずは……この子の安全の確保だろ。俺達が戦うのはそれからでも良い筈だ」
「……確かに」
確かにそうだ。
この戦いでは何かあればそのまま市死に直結する。
だからこそ、まずはアイリスの無事を確保しなければならない。
反論しようがない。
すげえ真っ当な事言ってくるじゃねえか兄貴の癖に。
……でも確かに、それがベストかもしれない。
ブルーノ先生はそもそも俺達を守る様な立ち回りで戦っている。
つまり俺達が此処からいなくなれば、あの人は戦いやすくなる、
……きっと勝てる可能性は高くなる筈だ。
そして、そこに重ねるように兄貴は言う。
「それに……お前、足首怪我してるだろ。それであの戦いに加わるつもりか」
ここ何年も俺に向けてこなかった、真っ当な言葉を。
……さっきからほんと、調子狂うな。
でも分かった。
「端から見てそう言われる位なら……このまま突っ込んでも最悪足手纏いか」
「ああ。だから一旦引く。戦略的撤退だ」
「……分かった」
正直、この状況で恩人とも言えるブルーノ先生を置いて逃げるのは気が乗らない。
だけど此処に俺達が居る事が。
戦いに加わることが、先生の生存率を返って下げる可能性があるのなら。
「一旦引こう。一旦な」
「それでいい。いくぞ」
「ああ」
善は急げだ。
俺とアイリスとブルーノ先生。
そして……兄貴。
この四人で生き残る為に、一旦下がる。
「アイリス!」
「う、うん!」
俺はアイリスを抱きかかえて、地を蹴り飛んだ。
林道なんて走ってられない。
空中に結界を張ってそこを足場に、さっきの開けたスペースから距離を取っていく。
まずはこのまま山を下る。
そこでどこか安全な場所にアイリスを送り届けて……それからどうする? この場合俺はどうすればいい?
と、そう考えていた時、隣を風の操作で飛ぶ兄貴が言う。
「……とはいえ、あの状況で俺にお前ら連れて逃げろって言わなかったのはこういう事なんだろうな」
「は? 兄貴何言って……」
「アイツは最低でもお前が目を覚ますまでは、自分の手の届く範囲にお前ら二人を置いておきたかった訳だ」
そして真剣な声音で兄貴は言う。
「来るぞユーリ……増援だ!」
「うぉ……ッ!」
そして俺達の正面に現れた。
木の上からこちらにナイフを投擲する白装束の男が。
劣化の最強魔術師 ~学園最弱の魔術師がゴミスキル『劣化コピー』で人知を超えた魔術をコピーした結果~ 山外大河 @yamasototaiga
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