15 術式を刻むに至るまで

「ユーリ君はさっきの追試中に言ってたよね。自分は無能だって。スキルだって褒められた力じゃないって。アレだって煽る為だけじゃなくて、実際自分でもそう思ってるんじゃないかい? 今の言葉だってそうだ。前々から思ってはいたけど、ユーリ君は時々自己評価が低くなる時がある」


「……低くねえよ。実際正しいだろ。言い方とかはマジで腹立つけど、俺に限って言えばハゲの下した評価は間違ってねえんだ。俺が才能の無い無能なのは変わらなくて、追試を突破できたのもお前の頑張りのお零れを貰っただけに過ぎねえ。俺が凄くなった訳じゃねえよ」


「そんな事ない」


 アイリスは俺の目を見て言う。


「ボクの力を引き出させたのは紛れも無いキミの力だ。そしてその力をキミに刻ませたのは他でもないキミの人生の歩みなんだよ。キミがあれだけ戦えたのも、ボクが術式を託せたのも他力本願なんかじゃない。キミが一つ一つ積み上げてきた事が実った結果の筈なんだ。それは……それはキミ自身が凄くなったという事だろう?」


 俺自身が……か。


「……でもお前以外からはまともな力を引き出せないんだけど」


「それでもボクの力を振るえるのはユーリ君だけなんだ。他の誰にもできない。キミだけができる。胸を張ったっていいんだ」


「胸を張る……ね」


 そう思っても良いのだろうか?

 確かにスキルは価値観や人間性が反映されて魂に刻まれる。

 故に俺だからこそ劣化コピーのスキルが刻まれ、俺だからこそアイリスの力を引き出せた。

 それが俺でなければできない事で……結果が着いて来ているのだから、胸を張っても良いのだろうか?


 ……きっと良いのだろうと思う。


 アイリスに色々と言われた今、そう思えるようになってきた。

 単純な頭してるだけかもしれないけど、自分では無い誰かに。信頼している誰かにそう言って貰えるだけで、大分前向きに自分を肯定する事ができた。


 ……だとしてもだ。


「でもまあ、やっぱ胸を張れるような事ではねえよ」


「中々強情だね」


「そりゃ強情にもなるって。中々受け入れがたいんだ」


 そもそもこの力が強いか弱いか。

 この力を得た俺が有能か無能か以前の話。


「あのハゲも言ってたけど、このスキルは他人が積み上げた努力を掠め取る。やってる事は誉められた事じゃなくて……まあ、そういう力が刻まれるってのがどういう事かを考えると、あんまり良い気分じゃねえよな」


 俺がそういう人間だから、そんなスキルが刻まれた。

 それで胸を張れるかと言われれば俺は張れない。

 だけどアイリスは言う。


「ユーリ君はアレだね。自分の事を良く理解していないんじゃないかな?」


 そんな、良く分からない事を。


「理解……してるつもりなんだけどな」


「いや、出来てないよ」


 そして一拍空けてからアイリスは言う。


「少なくともキミにそういうスキルが刻まれるに至った理由は、キミが考えているようなネガティブな理由じゃない筈だ」


「そう……かな?」


「そうだとボクは思ってる」


「……」


 そう言って貰えて、アイリスがそう言うならそんな気がして。

 だけど俺の一体どういう所が反映されてこの力が刻まれたのだろうかと。

 そんな事を考え始めた所で、アイリスが自分なりの根拠のような物を述べだす。


「ユーリ君はさ、魔術の才能が無いよね」


「なんで俺急にディスられてんの?」


「いや、別に悪口言ってる訳じゃなくてね……あ、いや、これ駄目だ。どう聞いても悪口にしか聞こえない! ごめ、あの、そういうのとはちがくて……とにかくごめん!」


「あ、いや、分かる! それは分かる分かってる! いや、緩急鋭すぎるからちょっと動揺したけどその辺は分かる! なんか、なんかあるんだよな!」


「あ、うん……まあ、そんな感じ」


「だ、だよな」


 逆にそうじゃなかったら困る。

 後で一人で泣いちゃうよ?


「それで……俺の魔術の才能がどうした?」


「あ、うん……そうだね。じゃあ……改めて」


 改めてアイリスは言う。


「まあ……えーっと……」


「俺に魔術の才能が無い。それで?」


「……それでも、ユーリ君はこの学園に入学してきた。知ってると思うけど結構倍率高いんだよ? それでも才能ある優秀な人達を押しのけて補欠合格にまで漕ぎ着けた。それは相当な努力をしないと絶対に出来ない事だと思う。それこそそれ相応のね。そして今だって頑張っているのをボクは知っている」


「……」


「例えどれだけ時間が掛かっても。やるだけやって思うような感じにならなくても。それでもユーリ君は最低限形にしてきた。今だって人よりも誰よりも必死にそういう事をやっている。例えうまく行かなくても。うまく行かなくても。うまく行かなくても諦めずのに誰よりもだ。ボクはそれを知っている」


 そして、とアイリスは言う。


「既存の魔術を覚えるって言うのは模倣だよ。先人のコピーだ。それをうまく形に出来ないのは。それでも最低限形にするのは、ある意味劣化コピーと言っても良いのかもしれない」


 そして纏めるように、アイリスは言う。


「良い意味で劣化コピーはキミの頑張ってきた証じゃないのかい?」

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