16 約束通り

「……」


 実際の所、アイリスが言ってくれた言葉が正しいかどうかは分からない。

 才能があろうとなかろうと、誰でも各々がやれる範囲での努力は積み重ねている筈で。

 俺がやって来た事は別に、俺だけがやってきた特別な事ではないから。

 有り余る才能がある兄貴ですらやっているような、やれるまでやるという当たり前の努力を積み重ねてきただけなのだから。


 だから不十分だ。

 ただそうだったら良いなというような話。

 希望的な仮説止まり。

 それでこのスキルが刻まれたのかどうかなんてのは分からない。


 そもそも、きっと答えは存在するのだろうけど、その答えを俺達が知る事は出来ないんだから。

 どれだけ推測しようとも。仮説を立てようとも、そこから先へ進む事は出来ない。

 

 ……それでも。

 寧ろ、はっきりとした事が分からないからこそ。


「もう一度言う。ユーリ君はちゃんと凄いよ。だから卑屈になるな。堂々としていこう。ボクの友達は凄いんだって、ボクにも胸を張らせてくれ」


 そう思う事にしようって、前向きな事を考える事ができた。

 俺の卑屈な考えよりも。

 正論のように聞こえるハゲやあの連中の言葉よりも。


 俺の事をちゃんと見てくれている、俺が信じたい友達の言葉を受け入れようと思った。

 受け入れたいと思った。


 それはもしかするとただの現実逃避なのかもしれないけれど……それでも。

 それでもそれが逃避だとしても、きっと悪い物では無いと思う。

 悪い事だとは思いたくない。


 そして……そんな事を言って貰えたんだ。

 言わせるくらい心配を掛けているんだ。


「……お前がそう言ってくれるならそうなんだろうな。よし! そういう事にしとこう! 折角色々うまく行ったんだ。暗い事考えんのは終わり!」


 前向きに頑張っていかないと、アイリスに失礼だ。

 だからちゃんとアイリスにとって自慢できる友達でいたいと思う。


「俺はすげえって事で。堂々とドヤっていくよ」


 そう言って俺はアイリスに向けてピースサインを出す。

 ああそうだ。

 もうそれでいい。

 それでいいんだ。


「よし、その調子だ。いつもの感じに戻ったね」


「お前のおかげだよ」


「どういたしまして」


 そう言ってアイリスは笑う。


 本当にお前のおかげだよ。

 だからこの笑顔は裏切るな。

 一体どんな代物をどんな理由で刻もうと。

 この感情はより深く刻み込め。


「……さて」


 一通り俺の沈んでいた気持ちを引っ張り上げる為のやり取りを終えたアイリスは言う。


「とりあえずボクの術式とキミのスキルでボク達は追試を突破した……まあ色々と揉めてた感じだけど、多分大丈夫だろう」


「だな。で、ブルーノ先生だったよな? あの先生も言ってたけど、いくらでも立証が可能なんだ。最悪もうちょっと揉めてもゴリ押せるだろ」


「だね。つまりボク達の大勝利って訳だ」


「そういう事。文句の付けようのねえ大勝利だよ」


「だったら祝勝会しないとね」


「祝勝会?」


「おいおいすっとぼけるなよ。キミが最初に言い出したんだぞ」


「あぁ……言ったな。言ってたわ」


 なんかもう色々と大変な状況だったからさ、そんな事言ってたのすっかり忘れてたわ。


「っしゃあ! じゃあ祝勝会すっか!」


「おー!」


 正直具体的に何処で何をするとかは全く考えていないけれど、こういう時はちゃんと祝っとかないとって思うし、俺もやりてえ!


 やるぞ約束通り祝勝会!

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