14 心の声を言葉に

 ハゲの怒号を背に競技場を出た俺は、出入り口まで迎えに来てくれたアイリスと合流する。


「お疲れ、ユーリ君」


「おう。お疲れ」


 そう言って二人で軽くハイタッチ。


 ……元々、二人でこの関門を突破したいとは思ってはいたんだ。


 だけどアイリスから魔術を劣化コピーするまでは、とてもじゃないがこういう風に気楽にハイタッチとかやってられる状況が来るとは思えなくて、なんか感慨深い。


「しっかし凄い戦い方だったね」


「目立ってただろ?」


「良くも悪くもね……全く、意図が読めなきゃ印象最悪だよあの戦い方」


「………………意図、読めました?」


「なんで不安になってるんだい?」


 いや、だってああいう戦い方するって事前に言ってなかったし!

 だからその、なんというか……不安じゃん!

 いやまあ読めてるからそういう事言ってくれたのは冷静になれば分かるんだけどさ。


「ま、まあ伝わったなら良かったよマジで……伝わってた?」


「しつこいな。その辺は安心してくれ。ボクはキミのご家族の次位にはキミの事を理解している自信がある」


 ……家族の次、か。

 アイリスには、俺が家でどういう扱いだったのかは話していない。

 この学園に一緒に通っている兄貴の事を含めてだ。

 だってほら、態々空気が重くなるような話はする必要が無いだろう。

 俺達の間位は気楽な会話が溢れている位が丁度良いと思うんだ。


 だからまあ、アイリスは俺の家族の事も良く知らない訳で。


「いや、アイリスが一番俺の事を理解してくれてるよ。ありがとう」


 実際、アイリスが一番俺の事を見てくれている。

 知ろうとしてくれている。

 目を背けないでいてくれる。

 ……だからその点に関しては冗談抜きでアイリスが一番だよ。


「そ、そっか……あはは、えっと、どういたしましてで良いのかな……」


 そう言ってアイリスは少し顔を赤らめて視線を反らす。

 ……っていうか俺結構恥ずかしい事言ってなかった!?

 と、というかアイリスが言ってくれた言葉も相当……えーっと……照れるわ改めて考えたら。


 ……まずいまずい変な勘違いすんなよ俺。

 俺達は友達だから。

 変な勘違いして踏み込んだら、唯一の友達が居なくなるぞ。


 と、とにかく話題を変えよう。

 意識を別の話題に向けないとアイリスの顔が見れない。


「そ、それにしても凄かったのは俺の戦い方云々よりお前の魔術だって。なんだアレ。十分の一程度に劣化してあれだけの力が出せんだぜ? 凄すぎだろ」


「そ、そうだろう?」


 気分良さそうに胸を張るアイリス。

 ……本当に気分が良さそうだ。

 まあ当然と言えば当然だと思うよ。


 今まで頑張って来たよな。

 だけど頑張ってきた事、誰からもちっとも評価してもらえなかったもんな。

 俺だってお前が頑張っている事は分かっても、頑張ってやって来た事そのものを褒めたりなんて、殆どしてやれなかったもんな。

 だからそりゃ……少し褒めて貰えるだけでも嬉しいのは分かる。

 ……俺だって昔褒められたら嬉しかった。


「ああ。お前は凄い奴だよアイリス」


 だからそういう事はちゃんと言葉にしていきたい。

 頑張ってる奴は応援したいし、凄い事やった奴には褒めてやりたいし、何か悪いことがあった時には慰めてやりたい。

 それが友達なら。

 アイリス相手なら尚更だ。


「……ありがとう」


 そう言ってアイリスは笑う。

 ……ほんとさ、笑って此処を出られそうで良かったよ。


 そして一拍空けてからアイリスも言う。


「あの……ユーリ君も凄かったよ」


 そんな結構嬉しいことを。

 ……だけどだ。


「いや、別に俺は凄くなんてねえよ。凄い事はやったのかもしれねえけど、俺自身は何も凄くはねえんだ」


 アイリスが凄いから、無能の俺も一緒に凄いように見えている。

 ただそれだけなんだよな。


 だけどアイリスは俺の目を見て言う。

 照れだとか、満足そうな表情とか。

 そういう感情は表情から消えて。


「そう言うと思うから。そんな事を考えていると思ったから、こうして言葉にして言っているんだ」


 とても真剣な眼差しで。

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