13 全面的な勝利

 そして煽る様な事をハゲに言い散らかしたブルーノ先生は、今度は俺に視線を向けて言う。


「まあそういう訳だ。お前は用意された試験内容を無事突破した。そして100パーセント事情を理解した訳じゃねえがお前の力は、あそこに居る子がそもそも追試を受けなければならない状況に至る筈が無かったという事も証明した。お前ら二人共合格だよ。覆ればそれは不当な評価だ」


「何を貴様勝手な事を! 評価を下すのはこの私だ!」


「その下された評価が正当な物かどうかを判断するのは周囲の人間の仕事でしょう。もしこの子らが不合格になるようなら、しかるべき形で覆させます」


「覆るとでも!?」


「逆に何故覆らないと思ってんだプライドに知性食われてんのか……ったく、馬鹿の相手は骨が折れる」


「何だとお前! 今私の事を馬鹿と言ったか!」


 そうやってハゲは怒号を上げるが、ブルーノ先生は一旦それを無視して改めて俺の方に視線を向ける。


「ま、そういう事だから。後の事は任せて今日は帰れ」


「え? い、いいんですか?」


「お前はやれるだけの事をやった。そしたら後は大人の仕事だ。責任は俺が取る。その辺は信頼してくれ。うまくやるさ……まあ会ったばかりの奴なんて中々信頼できないのはわかるけど」


 ……まあ、突然の出来事すぎてこの人に全面的な信頼を置けと言われても難しいけれど……それでも。


「分かりました。後の事はよろしくお願いします」


 そう言って軽く会釈する。


 その底知れない自信。

 この空間で唯一俺達の味方をしてくれたという事実。


 そして大人として、少なくとも間違いなくあのハゲよりは信頼が置ける。


 実際俺やアイリスにこれ以上出きる事が無さそうな事も考えると、ここは任せても良いのかもしれない。


「おう、任せとけ任せとけ。だからお前は早く行ってやれよ。あの子は多分お前の事待ってるんだろ?」


「あ、はい! じゃあすみません、失礼します!」


 お言葉に改めて一礼して、踵を返す。


「あ、おい待て! 私は認めんぞ!」


「あなたが認めなくても、この分かりやすい結果はまともな大人なら認めますよ。もっともあなたと同じで否定したい人もいらっしゃるでしょうけど」


 まあ確かにそうだろうなと、ハゲに背を向けて歩きながら考える。


 なにもアイリスはハゲだけにあの論文を見せていた訳ではない。

 隙あれば色々な人に見せてきて、この度に否定されてきた。


 そして自分が否定した物が正しかったという現実を受け入れたくない連中もハゲを筆頭に大勢いるだろう。


 ……これが通ればそういう連中の鼻もへし折ることが出来る。

 そしてブルーノ先生は任せろと言ってくれた。


「それでも再度立証可能な事を否定し続ける程人間性がねじ曲がった人間はそうはいない。頭を抱えながらそれでも認めてくれますって。子供じゃないんだから」


 これは全面的に、俺達の勝利だ。

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