ex 最善手を最速で
(おいおい待て待て! 何が起こった!?)
最初は小走りでユーリの方へと向かっていたブルーノだが、突然の戦闘音を耳にして思わず走り出した。
ユーリをぶっ飛ばした先で、何かが起きている。
……自分が把握していない何かが。
その何かの正体は分からないが、おそらく戻ってこない事を考えるとユーリは意識を失っていて無防備な状態。
故に当たり前のように命の危険がそこにある。
そして急ぐブルーノの前に、突如高速で結界が飛んでくる。
「……ッ!」
それを体を捻って躱すが……今のではっきりした。
明らかに人を狙って今の攻撃を打ってくるような奴がそこに居るという事が。
そして飛び出す。
「ユーリ!」
飛び出した先で……視界に映った。
(コイツらは……)
三人組の少年少女が居た。
内一人はユーリの身辺調査で把握している。
ロイド・レイザーク。
ユーリの兄だ。
残り二人も見覚えはある。
ユーリの追試の時にロイドと共に観覧しに来ていた生徒だ。
その内の女子生徒がユーリにおそらく回復魔術を使っている。
ロイドの構えと位置情報的に、先の結界の一撃はロイドの攻撃と断定。
後ろの少年はユーリと少女を守るように立っている。
(……なるほど、これ無茶苦茶な誤解されてるな。いや、実際ユーリぶっ飛ばしたの俺だから、何も間違ってねえんだけど)
ロイド達はブルーノからユーリを守ろうとしているのだ。
……中々に厄介な状況。
(いや、ならさっきの戦闘音は……ッ)
そう思った瞬間、視界の端に倒れた白装束が二人映る。
(まさかアイツら……ッ!)
知っている。
白装束で連想する厄介な集団の事を。
強襲部隊七班。
過激派の連中。
ブルーノ・アルバーニは所属する組織から、滅びの未来を穏便に回避する為に送られてきた。
確実性を求めるならば、対象となる二人を殺害してしまうのがセオリーだというのに……それでも、血を流さずに事を収束させる為に、何をどうすれば正解なのかも分からないような状況でだ。
当然反発はあった。
あるに決まっている。
世の中に軽い命など一つもないが、それでもそうは言っていられないのが現実だ。
この一件に下手すれば全人類に近い程の大勢の命が乗っているから……寧ろ反発する者の方が正しい様に思える。
それでも最終的に血を流さず回避するプランが選択された。
上は人権を何より最優先で行動する、自分達のような組織としては考えられない程の無能なのだ。
そしてその決定に反発し動いた者が居た訳だ。
(くそ、ふざけんなよ馬鹿共!)
そいつらとロイド・レイザーク達は戦闘を繰り広げていた。
そしておそらく自分はその仲間と誤認されている。
だから殴り掛かってきている。
(いや所属組織は同じだけども!)
その拳を躱しながらロイドの手に注目する。
……風を纏った拳だ。
おそらく対象を殴った時に、手元に圧縮した風が追撃を加える。
あまり喰らいたくは無いし……あまり戦いを長引かせる訳にはいかない。
今は相手にすべき敵がいる。
そして……ユーリが狙われたという事はだ。
一刻も早くアイリスの元にも戻らなければならない。
アイリスにははまともな自衛手段が無いのだから。
(くそ、こんな事ならこっちに連れてくればよかった!)
だが時既に遅し……とはいえだ。
だから此処からは、本当に急ぐ。
その為に、やるべき事は?
(……身辺調査で知っている。ユーリとは何故かとんでもねえ溝があるみてえだが、基本的にコイツは話が分かる側の奴だ。だが……)
この状況から誤解を解くのにはそれ相応の時間を有する。
そんな悠長にはしていられない。
……だから。
「一応言っとくが俺は別にユーリの敵じゃねえからな!」
ワンチャンこれである程度理解してくれる事を祈って、放たれたロイドの攻撃を潜り抜け突破する。
幸い、ロイドはあまり近接戦闘が得意じゃない。
ユーリとは逆のタイプだ。
だから隙を見て突破できる。
「……ッ! まっちゃん!」
「え、この人新任の先せ――」
そして後ろの奴は、ロイド程鋭くない。
ブルーノ・アルバーニという一応知ってる相手が、今の彼らにとっては混乱の元となる発現をして突っ込んでくる。
そこから生まれる混乱。
鈍る動き。
そしてその後ろも回復専門。
故に……一瞬の時間さえあれば。
「あ……ッ!」
「回復ありがとう!」
倒れたユーリを回収できる。
「あ、おい待て!」
「わりぃ時間ねえんだわ説明は後だ!」
そして先程の模擬戦でユーリがしたように、正面に張った結界を足場に、逆方向。
今着た方角の上空に向けて飛ぶ。
そして再び足場を形成。
遮蔽物は無し。
一気に行ける。
そして結界を蹴り、宙を跳ぶ。
それを繰り返し飛び続ける。
一気に最速で。
そして見付ける。
開けた空間。
先程の模擬戦を行った地点。
数人の白装束に囲まれるアイリスの姿が。
(……よし、生きてる!)
どうやらアイリスと何かを話しているようだった。
(此処にひよったか? 来る時点で覚悟決めとけよとは思うが、ありがたい)
まあ当然と言えば当然だ。
アイツらはこの場で二人を殺すのが正しい事だと思い動いている。
正義だと思い動いている。
実際それは正しいのかもしれない。
だけどそれでも目の前に居るのは、まだ何もしていない。
そしておそらく直接何かをする方じゃない少女だ。
一瞬踏み止まって。
ターゲットを追い詰めた時のそれっぽい常套句を口にして。
そうして自分達の覚悟を必死になって決めないと動けない、なんて事があってもおかしくはないのだ。
だから踏み止まってくれた。
だから助けに入る事ができる。
(……射程範囲内!)
そして敵を迎撃する為の魔術を発動する。
まだ現状のユーリ・レイザークなら屠れるような。
そういう威力を有した強力な一撃を。
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