ex 兄ちゃんの戦い

 敵の動きは風の流れで補則できる

 そしてその動きから、その後の行動パターンを割り出して……想定されるどのパターンで動かれても攻撃を放てるように、先の竜巻の時点で調整していた。


 そしてパターンA。

 二人同時に正面へと躍り出てくる。

 一番理想の形。


 そこに撃ち放つ。

 左右からピンポイントに撃ち放つ暴風の塊。

 それを勢いよく同時に打ち付け、白装束の二人を挟み込む。


 風と言えども使い方によっては暴力の塊になり得る。

 それこそこの場合は、鈍器で全身を左右から叩きつけられたに等しい。


(うまくいった……!)


 先の竜巻。

 狙いは何も相手を炙り出す事だけではない。

 明らかに当たらない。

 当たった所でそこまでのダメージを与えられない。

 そういう攻撃を態々こちらが位置情報を掴んでいなければ成立しないという、ある種のアドバンテージがある状況で撃つ。

 ある意味絶好のチャンスを棒に振るように見せかけたその攻撃は、その攻撃がこちらの上限一杯だと誤認する。


 故に……そのアドバンテージがあったとしても強者相手では決まるか分からない大技を決める隙を獲得する事ができる。


 そして……すかさず追撃。


 両手に小型の結界を作り出し……そして風の力で射出する。

 次の瞬間、それらは直撃。

 高い高度の結界は盾であると同時に鈍器だ。

 それを超スピードでぶつけられれば、生半可の出力の強化魔術ではもう立って居られない。


 そして相手の出力が生半可かどうかは分からないから……さらに念入りに追撃していく。


(徹底的にやる……こっちはユーリのアイツらの命が掛かってんだ!)


 先の両サイドから放った暴風の塊。

 それを瞬時にもう一度放つのは難しいが……一方向からならすぐに打てる。

 ……もう打った。


 そうして放たれた暴風の塊は白装束の二人組を、上空から圧し潰し、地面に叩きつける。


(……どうだ?)


 起き上がってくる様子はない。

 恐らく……意識を奪えた。


(……よし!)


 運が良かったのも大きいのかもしれない。

 いや、実際それが全てだったのかもしれない。

 向こうがこちらが動いて欲しかった通りに動いてくれた。

 だからやった事が全部嵌った。

 嵌ってくれた。


(……次だ)


 まだ、何も安心できる状況じゃない。

 寧ろ此処からだ。


 今のユーリは自分と同等か、それを上回る程の強い力を有している。

 そのユーリをどういう経緯かああいう状態に追い込んだ。

 その相手がこちらに向かっている。


 それも……戦闘が始まってから、露骨に速度が上がった。

 露骨に……あまりにも早く。


「……ッ!」


 この速度で移動する相手に先程みたいな一手間かかる戦法は使えない。

 真正面からシンプルにぶつかるしかない。


「まっちゃん、次来るぞ!」


「りょ、了解っす!」


 先の攻撃を防いでくれたまっちゃんに再びそう言ってから、手に再び結界を生成。

 それを敵目掛けて射出。


(……どうだ)


 風で動きを辿る。


(……全く止まってねえ!)


 そしてその敵が躍り出る。


「ユーリ!」


 弟の名を叫ぶ見覚えのある男が。


(コイツは……)


 例の追試の際に突然現れて、窮地のユーリと、アイリスという一年を救った男。

 やや不自然なタイミングで赴任してきた教師。

 別の友人から聞いた話によると、あれ以降も継続してユーリとアイリスと関わり合いを持っているらしい男。


 そんな男が、ユーリが飛ばされてきた方角から、言ってしまえば飛ばせるだけの力を持つ事を証明するような速度で飛んできた。


 明確にユーリを殺害しようとした訳の分からない白装束の連中が現れた、この状況下でだ。


(……まさか)


 そして点と点が繋がったような、そんな感覚がした。

 あのアイリスとかいう一年の術式は、まだ学園内で話が留まっているものの、それこそ魔術界隈を大きく騒がせるような偉業とも言える代物で。

 場合によってはこの先、魔術に関するあらゆる物事がひっくり返る可能性すらある。


 そしてユーリはそれを出力できる。


 故に二人を褒めたたえるような存在も居れば……二人を邪魔に思う者もいるだろう。

 そしてあまりにも都合の良いタイミングで現れ、二人と接点を持ったブルーノ・アルバーニという男は……最初からユーリの敵だったのではないかと。


 この状況に追い込んだ主犯なのではないかと。


(だとすれば引く訳にはいかない)


 この男は自身にとって最も倒すべき敵だ。


(大丈夫だ。兄ちゃんが守ってやる!)


 そして構えを取った。

 倒すべき敵を倒す為に。

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