22 テスト

「お待たせしました!」


「全然待ってねえよ。というかさっき準備が終わった所だ。あんまり早く来すぎても困るんだよ」


 そう言うブルーノ先生に近付くと……ある地点に足を踏み入れた途端に突然周囲が明るくなった。


「……これは?」


 俺とは違い手元の魔術の明かりが頼りだったアイリスが、思わずという風にそう呟いた。


「流石にこんな夜中にここら一体明るくするような術式は使っちゃまずいだろ。無茶苦茶目立つし迷惑を被る人もいるかもしれねえ」


 だから、とブルーノ先生は言う。


「内部を明るく照らす結界をここら一体に展開した。これで外からは何の変哲もない夜の山って訳だ」


 ……なるほどすげえ。


「簡単に言ってるけど、かなり凄い事やってるよ」


「そりゃ……先生だもんなぁ」


 ……まあ関心するのはここら辺までにしておいて。


「で、これから一体何を……」


「テストだよ」


「テスト?」


「分かってる通り俺は前らと出会って数日。で、唯一見た戦闘もアイリスの力を見せびらかす為の悪く言えば舐めた戦い方だった訳だ。つまり俺はお前が何をどこまでやれるのかみたいな事を全く知らん」


 だから、とブルーノ先生は掌に拳を打ち付ける。


「まずは今の実力を測りたい。アイリスの力を使ったお前がどの程度までやれるのかをな」


「ああ……まあそりゃそうですよね」


 この人は俺の事をまだ殆ど何も知らない。

 というかアイリスの力を手にした俺自身が、何をどこまでできるのかが分かっていないんだ。


 だから俺もブルーノ先生も……早い段階で測っておく必要がある。


 今の俺の実力を。


「で、一体テストってどんな……ってのは聞かなくても分かれって感じですかね?」


「聞いてくれりゃ答えるぞ。ただ分かったんならそれでよし。時間も少ねえんだ。さっさとっ始めよう」


 そう言うブルーノ先生は構えを取っている。

 実践で実力を測る。

 なるほど……シンプルで分かりやすいな。


「え、ちょっと待ってちょっと待って。え、なんだい? そんな物騒な事をやる感じなのこれ!?」


 アイリスが狼狽えるようにそんな声を上げる。

 だがその言葉に冷静にブルーノ先生は答える。


「実際、魔戦競技祭じゃ物騒な事をやる。それを乗り越える為の特訓だ。当然物騒にはなる。そんな訳でユーリ。今出せる全力でぶつかってこい」


「はい!」


 今俺の手にあるアイリスの力はあまりに強大だ。

 誰にでも振るっていいような力じゃない。

 だけど此処から先の戦いは、きっとこれを全力で振るわないと話にならない相手ばかりの筈で。

 そして……余裕そうな表情を見せているブルーノ先生もそういう相手だ。

 というか折角時間作ってくれたのに手とか抜いたら、かえってこの人に申し訳ない。


「そんな訳でアイリスはちょっと下がってて。巻き込まないようにはするけど」


「あ、はい!」


 そう言ってアイリスは少し下がりながら言う。


「えーっと、ユーリ君。怪我無いようにね」


「ああ大丈夫。怪我しても俺が治すから」


「いや、そうじゃないと困るんですけど……ボクが言いたいのはそういう事じゃなくて……」


「大丈夫」


 心配してくれるアイリスに言う。


「お前の術式が付いてんだ。大丈夫だろ」


 言いながら、軽く息を整え構えを取る。

 実際大丈夫じゃないだろう。

 結果がどうあれ普通に怪我は負うと思う。


 ただまあ少しでも心配を掛けないように……頑張ろうとは思う。


「んなわけで、よろしくお願いします!」


「おうこちらこそよろしくな!」


 そしてブルーノ先生との模擬戦が。

 アイリスの力を借りた初めての全力戦闘が、幕を開ける。

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