2 謝罪

 話、か。

 ……まあ色々肩入れしてくれたんだ。

 断る理由も無いし、全然良いと思う。


「勿論俺はいいですよ。アイリスは?」


「ボクも勿論」


「そっかよかった。いや、なんかイチャイチャしてたから邪魔しちゃ悪いかなとか思ってたからよ」


「「いやそういうのじゃないんで!」」


「反論がすっげえ息ピッタリ」


 ちょっと腹立つ笑みを浮かべてくるブルーノ先生。

 か、完全に俺達の反応見て楽しんでらっしゃる。


 いや、でもほんとそういうのじゃないから。


 そう考えながら、そういう事を言われてアイリスがどんな反応をしているかが気になって、思わず視線を向ける。


「……」


「……」


 目が合った。

 ……自然と反らした。


 ……アイリス顔赤かったな。

 多分俺もそんな感じだけど。


 まあ、とにかく……俺達はそういう関係じゃないし……うん。


「なんか凄い良い感じの青春してるなお前ら」


 変わらずニタニタと楽し気に笑って言うブルーノ先生。

 まあ……良い感じだとは思うよ、そこはほんとありがたい事に。


「まあとにかくそんな二人が良いならちょっと歩きながら話をするという事で。いやぁ良かった。スタンバってたのに断られたら結構傷つくぜ俺」


 そんな事を言いながら歩き出すブルーノ先生に俺達は付いていく。

 で、話って具体的にどういう話をするんだろうか?

 そしてブルーノ先生は真っ先に、先程までの軽い感じの口調とは打って変わって、少し真剣な声音で言う。


「……色々と調べたよ。大変だったみたいだな、ここ数か月」


「……ええ、まあ」


 ここ数か月。

 入学してからあの日俺達が勝利するまでの地獄。

 ……そりゃ大変だった。


「俺がこんな事言ったって何の意味も無いかもしれないが、此処は大人を代表して言わせてくれ……すまなかった」


 そう言って、ブルーノ先生は自分には関係の無い筈の謝罪の言葉を口にする。


「お前らは随分と酷い環境に居た訳だろ。普通校でもそういう問題なんてのは頻繁に起こり得る事なんだが、魔術学園の場合は選民意識がアホみてえに高い奴が一杯居るからその非じゃねえ事が多い。お前らの在籍していたあの教室ではそういう事が起きていた……それは本来、教師がなんとかしてやらねえと駄目な事なんだよ」


 だけど、とブルーノ先生は言う。


「あろう事かあのハゲが率先してお前らを虐げていた。そんな光景を見れば生徒のやる事が加速するのなんて目に見えて分かる。そして……他の教員も全員が全員実態を知らなかった訳じゃねえだろ。起きていた事に目を瞑ってたかもしくは、心中で同調していた馬鹿がいる。だからまあ……基本、全部大人が悪いんだ。悪かったな」


 ……まあ確かに誰も止めてはくれなかったな。

 魔術学園は実力主義でそういうものだって思ってたけど……それは俺の視野が狭かっただけなのだろうか?

 まあ真っ当な空間では無かったのだろうけど、それでもこうしてつい数日前まで部外者だったブルーノ先生が謝ってくるほどに、歪な環境だったのだろうか?


 ……正直なところ、それは分からない。


 考えてみれば俺にとって魔術に関してはずっとそういう環境にいた気がするから、できなければ暴言を吐かれる位が普通とさえ思うから。

 そうじゃなかったのなんて、アイリスと昔の兄貴位だったし。

 ……昔のな。


 で、それがいまいち分からなくてもこれだけは言えるし、言わなければならないと思う。


「それでも先生は謝る必要無いと思いますよ。余計な責任負わないでください」


「そうですよ。寧ろボク達は助けてもらった立場なんで」


「……そうか。まあお前らがそう言ってくれるなら、それでも良いかもな」


 そう言った後、一拍空けてからブルーノ先生は教師らしい質問を投げかけてくる。


「……で、お前らはさ、そういう頭おかしい環境にしがみ付いてまで頑張ってきた訳だと思うんだけどよ。そこまでしてこの先なりたい職業とか、そういうのってあったりするのか?」


 朝からするにはちょっと重そうな、将来の話の問いを。

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