3 魔術師としての目標について
結局の所、魔術学園というのも人生における通過点でしかない。
卒業してもゴールでは無くて、その先にも人生は続く。
そんなのは当然の事だ。
実際俺も具体的では無いけれど、やりたい事はある。
……あまり人前で言った事は無かったけど。
言ったのはアイリスに位だっけ。
まあ言う相手がアイリスしかいなかっただけで、別に隠すような話じゃないしな。
そう考えて俺はその質問に答える。
「すげえ漠然とした話なんですけどね、困ってる人とかを大勢助けてやれるような、そういう仕事をしてえなとかは考えてます。すんません、なんかふわふわした感じで」
「いや、良い。正直家が魔術師の家系だから魔術を学んでるみたいな、そういう漠然とした奴が多い中で、ちゃんと方向性だけでも定めてるってのは良い事だ」
「そりゃどうも」
「ちなみになんか、そういう仕事をしたいって思った理由とかってあんの?」
「理由……ですか」
あるかないかで言われれば……ある。
あるけれど。
「いや、特には無いですね。だから漠然としてるのかもしれません」
その理由はアイリスにも話した事は無い。
……こればっかりはあんまり人に話そうとは思えないんだ。
言いたくないだろ……自分が大嫌いな兄貴の影響を受けてとか。
それで漠然だとしても同じような目標があるとか、言えねえだろ。
まあ兄貴の方はとっくに目指してるもの変わってるのかもしれねえけど。
……身内にあれだけ碌でもねえ事を言う奴なんだ。
誰かを助けるような仕事なんか向いてないし、就いて欲しくない。
その夢はどこかで変わっていて欲しいって思う。
「……なるほどね。まあいいさ。大きなイベントが無いと目標を立てちゃいけないみたいなルールなんてねえし。実際夢や目標なんてのは、何気なくいつの間にかあったりするパターンの方が多いってもんだろ。しらんけど」
知らねえのかよ。
と、そう心中でツッコミを入れていると、ブルーノ先生はアイリスに言う。
「アイリスはどうだ? なんか夢とかあるか? すげえ論文書いたりしてる訳だからなんかあんだろって思うんだけど」
そう言われているのを聞いて、自然とアイリスの方に視線を向けるけど、アイリスは予想通り難しい表情を浮かべている。
……別にその問いが地雷という程では無いのだと思う。
だけど……まあ、本人からすれば表に出したくない事みたいで。
「えっと、ボクは別に……まだそういうのは」
そう言ってはぐらかす。
俺が聞いた時もそうだった。
何も無いって、その時も言っていた。
そんな訳が無いのに。
アイリスも魔術師家系の人間ではあるけれど……流石に俺はずっと見てきたから。
ただ家が魔術師家系だったから、ぼんやりと学園に通っているとか、そういう事じゃ無いのは分かってる。
絶対に何かはあるんだ。
原動力になるような何かが。
「なるほど。ま、それでいいさ。学園生活もまだまだ長い。これから見付けていくのも良いだろう。そういうのを見付ける手伝いをするのも大人の仕事だし……相談とかあったらいつでも来いよ」
「あ、ありがとうございます」
アイリスはそう礼を言う。
俺も心中で礼を言った。
……まあ多分ブルーノ先生も、アイリスが何かを隠している事位は気付いたとは思う。
だけど踏み込まなかった。
踏み込まないでいてくれた。
……それでいいだろ。
誰にだって言いたくない事はそれなりにある筈で、アイリスにとってはそれが目標とかの話だった。
だったら無理に聞く必要なんてない訳で。
なんかアイリスが話したいなって思ったタイミングで言ってくれたらそれでいい訳で。
だから……ちゃんとその辺の距離感を理解してくれるような先生で良かった。
で、そんなブルーノ先生に、今度はこっちから聞きたい事があって。
「あの、俺からも一つ良いですか?」
今の話が一応一区切りついた所でそれを聞いてみる事にした。
「なんだ? 答えられる事なら答えられる範囲で何でも答えるぜ」
「なら遠慮なく」
正直よくよく考えたら、何よりも優先して聞かなければならなかった質問を投げかける。
「いや、大丈夫だとは思うんですけど……あの後どうなりました?」
俺達が帰った後の話を。
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