ex 超えるべき壁について
「……何かあったんですか?」
ぼやくように言ったブルーノ先生の言葉に反応すると、話すべきか少し悩むような素振りを見せてから、それでも話して良いと判断したのかもしれない。
少し暗い表情で言う
「……正確にはまだ何も起きてない。だけど近い将来絶対起きる事がある」
「近い将来起きる事?」
「……この学園に入学してからのアイツの成績を確認した。色々踏み込んで贔屓しちまっているんだ。把握できる事は把握しとこうと思ってな。だから今回具体的に今アイツが魔術師としてどの位の実力なのかを書面で確認した訳だ」
「それで、何か問題が見つかったんですか? ……いや、問題しか無いとは思うんですけど」
「結構辛辣な事言うんだな」
「実際問題だから退学を回避する為の追試なんてやってた訳ですから」
「まあ、それもそうか……」
「で、結局それで一体何が……」
「……想像以上に壊滅的だった」
「……はぁ」
その事に特別驚きはしない。
知っている事を、普通に突き付けられた感じがする。
「えーっとそれが何が問題でも……いや、問題しかないんですけど……」
「問題しかねえよ」
ブルーノ先生は一拍空けてから言う。
「多分アイツは基礎までは才能無いなりにうまくやって、騙し騙し形にしているんだと思う。だけどその応用で躓きまくっている。で、此処から先は応用の応用が求められる世界になってくる。努力だけじゃもうどうにも埋まらなくなるようなレベルが要求されるんだ……で、分かってるとは思うが、魔術の論文に注目が集まり出したお前と違って、アイツはこの前の追試を突破した事で首の皮一枚繋がっている状態で踏みとどまってるだけなんだ」
「……」
……言いたい事が、分かった。
そして自分が到達した答えと同じことを、ブルーノ先生は言う。
「どこかでまた盛大に躓いて、その時にまた追試を受けるだろうが……もし次が今回みたいなシンプルな内容でなければ、その時点で詰むぞ」
今回の追試はやるべき事が非常にシンプルだった。
ゴーレムの破壊。
一定以上の実力が無ければ破壊できないが、それでもやり方はなんだって良い。
故に劣化コピーした未知の術式という、半ば飛び道具みたいな物を持ち出して勝つなんて事が罷り通った。
でも追試内容が、特定の術式で指定された何かをやる、みたいな事になればその術式を一定のレベルにまで磨き上げなければ突破できない。
そして多分ユーリにそれは難しい。
つまりだ。
まだ目と鼻の先に退学が見えているという事になる。
「……確かに最悪な状況ですね」
「だろ? 最低限の評価があれば、なんて言っておきながら最低限の評価を得るのが難しくて詰みかけてる。本来頭を抱えるべきなのは此処なんだよ」
「……」
想像以上に大問題だった。
そしてこの問題はメンタルの問題よりも……より一層出口が見えない。
どうすれば良いのかが、割と真剣に見えてこない。
そして疑問が一つ。
ブルーノ先生から感じる違和感。
ブルーノ先生はどういう訳か凄く自分達を贔屓してくれている。
会って極僅かな時間しか接していない自分達の事を真剣に考えてくれている。
そんな先生が絶望的なこの状況を前にして……そこまで悲観的な表情をしていないのだ。
寧ろこの問題より比較的スケールの小さかったメンタルの問題の方が、深刻な表情をしていた気さえする。
……という事はだ。
「……何か策とかは無いんですかね? ユーリ君が退学にならずに卒業まで居られる為の方法とか」
ワザとらしいその問いにブルーノ先生は答える。
「一応な」
そう、間髪空けずに。
「あ、あるんですか!」
「ああ。まあ今日普通に忙しかったからな。具体的に本当にそれで行けるのかとか、色々と精査しねえといけねえ事はあるからはっきりした事は言えねえし、まだアイツにも言ってなかったけど……まあ多分大丈夫だと思う」
ただし、とブルーノ先生は言う。
「本人が与えられたチャンスの中でうまくやれたらだけどな」
「ちなみにどんな……」
言いながら、ふと答えに辿り着く。
好成績を収めるか、それが駄目で追試を受けるか。
そんな正攻法以外で先に進むための、裏技染みたやり方。
今自分が、退学にならずにいられる訳。
「……成績が悪くても進級できるような、実績を作る」
「そういう事」
そして微かに笑みを浮かべてブルーノ先生は言う。
「で、今丁度良いのがあるんだよな。あんなイージーモードでは無いけど、この前の追試みたくシンプルで、即ちアイツのスキルとお前の術式があれば乗り切れるかもしれねえ、一大イベントがな」
「一大イベント?」
「そう。もんの凄い一大イベント」
そして一拍空けてから、その一大イベントの名を口にする。
「魔戦競技祭。文字通り魔術で戦って強い魔術師を決める競技歳だ」
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