11 試験結果と謎の男

 ゴーレムを破壊した後、自然と俺の視線は、呆然としている連中の中でただ一人笑みを浮かべているアイリスの方へと向かった。

 そして視界の先のアイリスは俺が見ている事を気付いてか、こちらに小さくグーサインを向けてくる。


 それに俺もグーサインで返しながら、自然と視線を兄貴の方へと向ける。

 どうせ他の連中と同じで苦い表情でも浮かべているのだろう。

 ……俺の今の状況は兄貴にとって不快だろう。


「……」


 だけど兄貴の方に視線を向けると、少しこちらの思考が止まった。

 ……薄っすらとだが、笑みを浮かべていた。

 それこそ昔の優しかった頃の兄貴の面影が感じられるような。


「……」


 ……何考えてんだマジで。

 曲がりなりにもうまくやれた途端に手の平クルクルって感じか。

 ふざけんな。

 何考えてんのかは知らねえけど、兄貴の事なんかしらねえ。

 俺はクラスの連中以上に、お前に言われてきた罵詈雑言を忘れない。


 と、そんな事を考えていた時だった。


「……とめんぞ」


「……?」


「認めんぞ私は!」


 ハゲの怒号が上がった。


「これは何かの間違い……そう、間違いなんだ!」


「えぇ……」


 何を言い出すのかと思えば、無茶苦茶な事を言い出した。


「間違いって、一体どの辺がですか。最後の方口悪かったり全体的に煽る様な感じになったのは、素行的に問題があったとは思うんで素直に謝りますけど」


「そ、そうだ! お前は素行が悪かった! なんだあの態度は! そんな奴に合格はやれん! グルなんだろ! 当然アイリス・エルマータもだ!」


「……」


 さっきまで目の前で起きた事を必死に否定する為に、何かの間違いみたいな事を言ってたんじゃねえのかよ……それを取ってつけたようにそんな事言いやがって。結局アイリスの魔術の事を否定できねえからそんあ事しか言えねえんだろ。


 ……いや、でもどうする?


 ど、どうする!?


 やっべえ、もしかして余計な事言ったか?

 律義に中途半端に謝るんじゃなかった!

 アホか俺は!


 え……いや、マジでどうする?


 例えば他の教員がこの追試を見ていれば、この試験結果が正確に受理されるとは思う。

 だけどこの場に他の教員は居なくて、居るのは無茶苦茶な事を言い出したハゲと、俺やアイリスに居なくなって欲しいと思ってそうな連中しかいねえ!

 兄貴は論外。


 つまりいくらでも試験結果とかけ離れた裁定が下されて、それを咎める奴がいねえ。

 くそ……何か手は……ッ!


 と、そうやって思考回路をフル稼働していた時だった。


「いや、そりゃ無いでしょう。いくらなんでも無茶苦茶だ」


 突然聞き覚えの無い男の声が俺達の間に割って入った。


 ……なんだ?


 声のした方に視線を向ける。

 視界の先に居たのは、俺の追試開始前に見付けた二十代半ば程のスーツを着た男。

 ……視界の端で何故か立ち上がっている兄貴の姿も見えたが、多分そっちは関係ないだろう。


 俺は兄貴を意識から外して、その男に意識を向ける。


「誰だアイツは……」


 ハゲも知らないようだった。

 いや、ハゲが知らないならマジで誰なんだ……?


「よっと」


 そして二階の観客席から軽々とした身のこなしで飛び降りた男はこちらに向けて歩いてい来る。


「まずはナイスファイトだ少年」


 そんな事を言って小さく拍手をしながら。


 ……いや、マジで誰だこの人!?

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