10 水を得た魚、水を与えた者
次の瞬間、俺は意味も無くゴーレムの背後に回り込む。
ああ、そうだ。
正面から叩き潰せるのだから、戦術的にはなんの意味もない無駄な動き。
ただ早さを見せ付けるだけの、無駄な動きだ。
ゴーレムはあくまで試験用だからな。
派手にやるだけじゃいくらでも難癖をつけられそうだし。
シンプルに早い動きもできるって所を見せておきたい。
そしてそのまま。
「っらあッ!」
ゴーレムの腕を全力で蹴り上げる。
そして激しい衝突音と共に砕かれ崩壊したゴーレムの腕は上空へと弾き飛ばされた。
……ああ、いい的だ。丁度良い。
そう判断して、右手にアイリスの魔術で黒色の球体……魔力弾を作り出す。
それを上空に俟っている腕の残骸に向けて撃ち放つ。
着弾までの時間は一瞬。
その一瞬で到達した魔力弾は激しい爆砕音と共にゴーレムの腕を粉々に砕く。
明らかな火力過多。
オーバーキル。
ただ見せ付ける為の一撃。
「……ッ! 図に乗りおって貴様ァ!」
次の瞬間、ゴーレムの首が180度後ろへ周り、目が発光。
俺に向けて魔術の光線を打ち込んでくる。
そんなもん他の連中の試験で使って無かっただろ……完全にブチギレてるな。
まあそりゃそうか、ここまでコケにされたらブチギレるのも分かる。
だけどそんな事を冷静に判断できる位には余裕はあって。
「よっと!」
俺は飛び込み滑るようにゴーレムの股の下を潜って回避。
そしてすぐさま態勢を立て直して地面を蹴って、態々遠距離の攻撃を誘うように距離を取った。
するとこちらが望んだ物を放ってくる。
再び首を180度回転させ、先の光線をもう一撃。
……まあ普通に躱せる。
直で受けてもなんとかなるとは思う。
だけどそれらはもうやったから、まだ見せていない正攻法を見せびらかしておこう。
正面に術式を展開。
そうして現れたのは半透明の黄緑の結界。
その結界はゴーレムの光線を傷一つ負う事無く受け止める。
凄いよな、ほんと。
無茶苦茶劣化してんのに、とんでもねえ硬度だ。
……で、次はどうするか。
俺の劣化コピースキルは無限にスキルをコピーできる訳じゃない。
だから今の自分が持てる限界は精々三つ。
その三つをひとまず使い切っている状態にある。
それでもまだ派手に見せられるようなやり方って何かあるのだろうか。
一応正面を警戒しながらそんな事を考えていると、ハゲの怒号が響き渡った。
「貴様ァ! さっきから何だその舐め腐った戦い方は! 突然水を得た魚のように好き放題やりおって! 図に乗り過ぎだぞ!」
ごもっともなキレ方だ。
突然こんなイキった戦い方をされたら、立場が逆なら俺も多分イライラする。
こういう奴嫌いだし。
「それが自分の力ならまだしもお前の使っているのは人の努力を掠め取った物だろう! 断じてお前が凄い訳ではない! 何を勘違いしているのかは知らないが、お前という人間の無能さは何一つ変わっていないぞ!」
同じくごもっとも。
俺がこんなイキった戦い方をする事を可能にしているのは全部アイリスだ。
努力したのもアイリス。
形にしたのもアイリス。
凄いのはアイリスだ。
対する俺はこんな碌でもないスキルが刻まれる程の碌でもない人間性の、一人では何もできない無能だ。
ハゲの言う事は正しい。
何も間違っていない。
「そうだ! それはお前の力じゃない!」
「お前は俺達と同じフィールドに居る価値の無い無能だ!」
「調子乗んなよボケェッ!」
だからそんな風に連中から俺へと届く罵詈雑言も全部正しい。
「そうですね。俺は変わらず無能だし、振るったのは俺の力じゃない。人の努力を劣化させてまで掠め取って形にした、褒められた力じゃない代物です」
認める。
だけどコイツらの言っている事が正しいという事はだ。
「だからそうやって普通成り立たない程に劣化させてでも無能がイキリ散らせるだけの力を与えてくれたアイリスの術式は凄いって事で良いですよね」
「……そ、それは……ッ!」
「俺が凄い訳じゃねえなら、アイリスが凄いって事で良いよなぁ!」
言いながら、叫びながら、少し考えた。
まだやれる事を。
だけど今即興で思いつく目立つ派手なやり方はもう思いつかなくて。
……だったら最後はもうシンプルに決めよう。
「そんな訳で!」
俺は再び床を全力で蹴って距離を詰める。
「アイリスは追試合格って事でよろしく頼んます!」
そしてゴーレムの胴体に全力の拳を叩き込み、そして貫いた。
それをもってゴーレムは活動を停止する。
ゴーレムを破壊し行動を停止させれば良いというだけのシンプルな合格条件は、これで達成だ。
……やったぞアイリス。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます