ex 勃発 中

「ユーリをか?」


「結構いい案だと思うんすけどね」


「あ、まっちゃんそれ私もどっかで提案しようと思ってたのに。取らないでよ」


「いや、とってねえっすよ俺。じゃあミコちゃんと俺が一緒に考えた提案って事で」


「よしそれで手を打とう」


 と、そんなやり取りを交わした後、まっちゃんが言う。


「弟君は今、すげえ力を手に入れてる訳じゃないっすか。だからあ戦力としては申し分ないっしょ」


 そんで、と此処からが本題とばかりにまっちゃんは言う。


「どうっすか。これを期に仲直りとか考えてみるのは」


「私もほぼ同じ考え……良い機会じゃない?」


「良い機会……か」


 言われて考える。

 もし……もし仮にだ。

 自分の理想通り、うまくいってくれたらこれ以上の事は無いとは思う。

 自分にその資格が無いのが分かっていても。

 この前の様に助言しようと前に現れるような事はあっても。

 昔のように仲良くやっていく資格は無い。


 ……だけどそれはそれとして、仲直りができるならしたいとは思う。

 そう思う位には……あの時、改めて受けた拒絶は中々心に来る物だった。


 ……そう。

 ああいう事が有った。


「俺がそうしたいと考えているかどうかは別として……無理だな。実はな、この前ユーリと顔合わせてんだ」


「え、マジっすか?」


「自分から行ったの?」


「ああ、自分からだ。この前例のアイリスとかいう一年の魔術を見る機会が設けられてたろ。あんとき周りの連中の対応がちょっと見てられなくてな……いてもたっても居られなくなった」


「大将らしいっすね」


「それで……どうなったの?」


 恐る恐る聞いて来るミコの問いに、沈んだ声音で応える。


「拒絶されたよ。話し掛けんなって言われた」


「……そっか」


「なんか……何でも良いから仲直りする機会とかねえんすかね」


 そう言ってまっちゃんは頭を抱える。


「ほんとこのままってのは……やっぱ良くねえっすよ」


「……」


 心の中で静かに頷く。

 自分の中でユーリを虐げる必要が無くなってから何日も経った。

 仲良くできない理由は消えて無くなった。

 そうなれば……日に日に仲直りがしたいという欲求は膨れ上がる。

 ……それでもそれは叶わないだろう。


 それだけ自分はどうしようもない事をしてきたんだ。


 と、そんな事を考えていた時だった。


 木々の間から人影が飛び出してきた。


「うおぉッ!?」


 突然の事で思わず柄にもない声を上げる。


「うわ、ちょ、大将急にでけえ声出さないでくださいよ!」


「何か知らないけど、ロイドの声にビビったわ私」


「わ、悪い。ったくマジでな――」


 飛び出してきた誰かは木にぶつかって止まって、地面にぐったりと倒れている。

 倒れて意識を失っている。

 そして……その誰かをロイドは知っている。


「……ッ!」


 だから、声にならない声が溢れ出した。


 ユーリ・レイザーク。

 つい先程まで話題に上がっていた、仲直りがしたい弟。


 その弟が、意識を失って倒れていた。

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