ex 勃発 上
時刻は僅かに遡る。
夜。街外れの山の中の山道を、二年生のロイド・レイザークが歩いていた。
彼は別にすぐに結果を残さなければならない立場ではない。
それでもこの場に停滞する事を良しとせず、常に上を目指していきたい。
今年の魔戦競技祭予選にて、後一歩及ばず構内予選で敗退したロイド・レイザークが最近日課にしているのはより一層の特訓だ。
まだメンバー集めはしていないが、夏に行われる団体戦にも出場する予定だ。
しかしながら団体戦は枠が一つ。
しかも自分が届かなかった三年の猛者たちがチームを組んでいるのであれば、今のままではあまりに自分の力は拙く脆い。
それでは危険な行事だというのに声を掛けたら集まってくれそいうな友人達を誘う資格すらないと思っている。
その為に。
今よりも強くなる為に。
夜に暴れても問題が無さそうな場所を見つけ、そこで特訓する事にしていた。
「うわー大将最近夜どっか行ってると思ったら、こんなとこで特訓してたんすね」
「確かにこの辺りなら明かりさえ確保すれば結構なんでもできそう」
そしてこんな時間に特訓するのに皆を巻き込むのは良くないと思い、一人でコソコソとやっていた訳だが……今日ついに友人たちに見つかった。
同じクラスの女子生徒のミコ。
同じくクラスメイトの男子生徒のマイク・ウィルソン……通称まっちゃん。
二人が今日は付いて着た。
「お前ら今日の授業で死ぬ程疲れたとか帰って寝まくるとか言ってたじゃねえかよ。別に無理して着いてこなくても良いんだぞ?」
「いや、無理とか全然してねえっすよ」
「ほら、確かに疲れたけどなんだろう……お腹一杯ご飯食べてもう無理ってなってもデザートは別腹みたいなのってあるでしょ?」
「ああそんな感じっすね」
「お前らデザート感覚で俺の特訓に付き合おうとしてんの?」
「ま、付き合うってのもちょっと違うかもしんないっすけどね」
まっちゃんは言う。
「大将は多分っすけど、魔戦競技祭に出るんすよね」
「そのつもりだが?」
「大将さえよければ俺らも一緒にエントリーさせてもらおうって考えてんすよ。その為にはもうちょっと位レベル上げとかないと」
「最低限恥をかかない程度にはね」
「お前ら……良いのか?」
「ああ、やっぱりそういうと思ったっす」
漏れ出した本音を突かれる。
「大将の派閥には基本オラついた奴はいねえっすからね。どうせ大将の事だから誰に声掛けて良いかとか悩んでたんっしょ?」
「……ッ」
「そして最悪一人で出れば良いかみたいなアホみたいな事も考えてた感じでしょ」
「……」
「あ、黙った」
「これ図星っすね」
実際図星である。
いくら殺すのが禁止とはいえ。
怪我をしても回復術師がいて治療して貰えるとはいえ。
怪我を負えばそれまでは重症患者で。
それ相応の痛みだとか辛さもあって。
そして合法的に暴力が許される場になるのだから……ヘイトをかっていれば、此処で発散してくる馬鹿も居る。
……この魔術学園。というより魔術師全般で見て、一定層人間として軽蔑するような連中はいるから。
そういう連中との縁を切って、そうじゃない奴らを集めて。結果できた派閥の様な物は、そこに所属する連中以外の一部のクズからは目に見えてヘイトをかっているだろうから。
正直、そういったあらゆる理由で誘い辛かった。
「……で、どう? 私達も一緒にエントリーしていい?」
「だとしたら、この後の特訓とかもすげえやる気出るんですけどね」
だとしても、こうして一緒にやりたいと言ってくれる友達を突っぱねる気はない。
「何かあっても、守れる範囲でしか守ってやんねえぞ」
「守れる範囲なら守ってくれるんすね」
「やっさしー」
「……とにかく、そういう事なら最低限自分の身ぃ守れる位お前らにも強くなってもらうからな。無理ない程度に頑張ってもらうぞ」
「無理はさせないんすね」
「やっさしー」
と、そんなイジりを聞きながらこれからの特訓プランを考える。
二人のどこが長所でどこが短所かなんてのは、普段見てる感じで大体把握できている。
後はこの限られた時間の中で長所を伸ばすか短所を埋めていくか……あるいはその両方か。
そんな事を考えていた所で、まっちゃんが言う。
「そういや俺らの参加に対してその反応って事は、四人目五人目は全く目星付いてないんすよね」
「……まあな」
……まっちゃんの言う通り、全く目星が付いていない。
最悪一人で出場するという考えは有った物の、三人になった今三人で出場するという考えはない。
一人なら自分で完結する事だが、三人で出る以上ミコとまっちゃんに人数が足りないが故の負荷を掛けたくはない。
だからこうなった以上、四人目五人目は用意する必要がある訳だが……全く見当が付かない。
とりあえずミコとまっちゃんは戦えるタイプの魔術師ではあるが、実を言うと他の友人は皆選択科目でその手の授業を極力外しているような、直接的に戦う事をあまり好まないタイプの魔術師だ。
(……マジで誰に声掛けりゃ良いんだ)
と、友人達の顔を脳裏に浮かべていた所で、全く想像していなかった角度の提案をまっちゃんがしてくる。
「とりあえず四人目に弟君誘ってみるとかどうっすかね」
本当に考えもしなかった提案を。
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