ex 評定
ああ、コイツは本物だと、ユーリを殴り飛ばしたブルーノは確信できた。
ユーリ・レイザークは間違いなく、高い戦いの素質を有している。
日中話して分かった事だが、ユーリはまともに人を殴った事が無いらしい。
自分の尺度で見ればその戦闘経験は皆無に等しいと思う。
それでも異様な程動きにキレと、判断能力。
そして近接格闘の才能がそこにはあった。
恐らく学園中の生徒で魔術無しの殴り合いをさせたら、既に五本の指には入る実力を有している。
現時点。我流の喧嘩殺法。しかもそれを振るうのが初めてという状態でだ。
とんでもない逸材。
……正直、卒業後は自分達の所にスカウトしたい位だ。
(だが……もしコイツが道を踏み外せば)
より、碌でもない結末へ繋がる可能性が色濃くなる。
現時点でこの強さ。
例えアイリスの術式が現状の効力出力で成長が止まったとしても、それでもこちらはまだいくらでも伸び代がある。
……底が見えない。
だが今ならまだ、いくらでも止めようがある。
(駄目だ……そうじゃない。導くんだろ俺は)
真っ当な道へ。
滅びの未来を回避する為に。
「……さてと」
ユーリの方は結界の範囲外へと消えてしまった。
(……もうちょっと広い範囲に結界張っておけばよかったか)
最後の攻撃を放った段階で結界の端の方まで移動していた訳で。
そこから一発叩き跳んでぶっ飛ばせば、当然の如くそうなる。
その辺の配慮が行き届かなかった程度には、少々熱くなってやり過ぎた感じもする。
(……これは反省だな。とにかくはやいとこユーリを回収しよう)
普通に怪我はさせている。
……導くと決めた以上、早い所回収して回復魔術を掛けなければならない。
「ちょ、先生やりすぎですよ!」
殺すような攻撃をしていないとはいえ、端から見れば少々刺激が強すぎる。
アイリスから半ば悲鳴みたいな声が上がるのは当然と言える。
「大丈夫。お前の魔術を使ったアイツはそんなに脆くねえから。とりあえず回収してくるから、お前は此処で待ってろ」
それよりも、そんな声を上げるアイリスには改めて言っておかなければならない。
「あと覚えとけ」
「……え?」
「お前の気持ちはよく分かるが、お前が参加しようとしてる魔戦競技祭ってのは、こういう事が頻繁に起こる場だ」
「……ッ」
「まだエントリーなんていくらでも取り消しできる。もう一度よく考えてみると良い」
今日は基本、この模擬戦とそれを踏まえた育成方針の決定で終わる予定だった。
実を言うと、今日アイリスにやって貰う事なんてのは一切無かった。
呼んだのはこれが本命。
気持ちは分かる。尊重はしてやりたい。
だが教育者の端くれとして、大人として。
危険な事をやるという自覚を、より鮮明に伝えておかなければならなかった。
全部その為。
アイリスにそれを告げてから小走りでユーリの後を追う。
今の戦いを踏まえて、これからの育成方針を考えながら。
◇
そして、ユーリが弾き飛ばされた先に。
「……ッ!」
意識を失い倒れている弟を見て声にならない声を上げる、ロイド・レイザークの姿があった。
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