劣化の最強魔術師 ~学園最弱の魔術師がゴミスキル『劣化コピー』で人知を超えた魔術をコピーした結果~
山外大河
一章 覚醒の日
1 無能スキルの発現
レイザーク家と言えば世間一般的には魔術師の名家として知られている訳だが、その名家の三男である俺が輝かしい人生を送れているかというと、残念ながらそうではない。
「腐ってもあのレイザーク家の三男だ。少しはまともなスキルを発現すると思ったが……無能なお前と同じようにゴミのようなスキルだな。珍しいだけでなんの価値もない」
「……ッ」
初夏。
16歳の誕生日であるこの日の放課後、俺、ユーリ・レイザークは担任教師で初老のハゲに罵られていた。
正直少しくらいは反論したいものの、ハゲにぶつけられているのはどうしようもない程の正論で、何一つ反論の余地が無いから黙って聞いているしかない。
聞きながら、悔しさを噛み締めるしかない。
ハゲの言う通り、俺は魔術師として無能もいいところだった。
新しいことを覚えるのにも時間が掛かり、ようやく身に着けた術式はいつまでたっても脆く拙く。
当然、俺にだけできる秀でた事というものも何もない。
この魔術の名門校、ドルドット魔術学園に入学できたのも、補欠合格で辛うじて滑り込めたといったもので、お世辞にも周りの生徒に付いていけているとは思わない。
無能。
寸分違いなく出来損ない。
実家でもこの場所でも、俺はそこから抜け出せない。
そして今日はそんな出来損ないの俺にとって最後の希望と言ってもいい一日だったのだ。
人間は16歳の誕生日を迎えた日に、魂に術式が刻まれる。
一人一つの固有魔術。
通称スキルと呼ばれる力を手にできる。
俺はそこに賭けていた。
俺自身の希望となってくれるような術式が刻まれる事に。
八方塞がりな人生に光を差し込ます事ができるような術式が刻まれる事に。
だけど結果手にしたのはハゲの言う通りゴミのようなスキルだった。
「術式の劣化コピー。他人の術式のコピーなど聞いたことが無いが、使い物にならなければその希少価値もあってない物だな」
触れた術式。及び触れた人間が使う事のできるスキル以外の術式を大幅に弱体化させてコピーする。
人の努力の成果を、役に立たないガラクタとしてこの身に宿すハズレスキル。
そして俺という人間の性質がろくでもないという事を証明する写し鏡。
「ああ、一つ役立つ事が有ったか。そのスキルはお前の無能さと汚い人間性を証明する事には役立つな」
「……ッ」
何しろスキルは、その人間の価値観や人間性から導き出される代物なのだから。
こんなゴミのようなスキルが発現したのも、身から出た錆という奴なのだ。
そしてこんなスキルを発現したが故に、俺はもう終わりみたいなものなんだ。
「残念だったな。お前はスキルでなんとか追試を突破しようと目論んでいたようだが……こんなスキルではどうにもなるまい。となると前と顔を合わせるのも明日で最後になる訳だ」
「で、でもまだ合格しないって決まった訳じゃ……ッ」
「落ちるさ。断言しよう……全く、清々するよ。私の教え子に無能はいらんのだ」
「……ッ」
何も。何一つ言い返せない。
言い返せないまま踵を返し、ハゲの研究室を後にした。
背に腹立たしい笑い声を浴びながら。
自分の不甲斐なさから沸いてくる苛立ちを拳に込めながら。
◇
俺のスキルの詳細がもし他人から。
例えばハゲから告げられたものだったとすれば、まだ希望を見出す事はできただろう。
その判断が虚偽の可能性もあるから。
見当違いの可能性もあるから。
本当はもっと凄い力なのかもしれないから。
か細く脆い糸なのかもしれないが、それでも辛うじて光が見えてくる。
だけどスキルは魂に刻まれると同時に知識として記憶に詳細が植え付けられる。
つまり自分のスキルがゴミである事の第一人者は他ならぬ俺だ。
ハゲは俺から聞いて、それを実際に見て判断しただけ。
学園の校則に従って、スキルの申請とその証明を行った俺を見て、第三者の意見を述べただけ。
だから俺のスキルがゴミであるという事は正当な評価であり、つまり逆転の目が無いことはハゲ以上に俺が分かっているんだ。
「……クソッ」
それでも諦められないから。
こんな所で立ち止まる訳にはいかないから。
廊下を歩きながら、拳を握って思わずそう呟く。
そしてそんな俺の視界に、壁を背に立つ上級生の男子生徒の姿が映った。
ロイド・レイザーク。
俺の一つ上の兄貴だ。
……正直、あまり兄貴の事は得意ではない。
少なくともこんなメンタルの時に顔なんて合わせてられない。
そう考えて無視して通り過ぎようとした俺に、兄貴は軽く舌打ちして言う。
「おいユーリ。今日はお前の誕生日だろ。何か言う事あるんじゃねえのか?」
「……スキルの事か?」
「それ以外に何があんだよ。どうだった? 言ってみろよ」
……態々それを聞くために待ってたのか。
しかしあまり言いたくは無い。
ただでさえ普段から顔を合わせる度に俺が無能な魔術師である事を煽り散らしてくるんだ。
俺に刻まれたスキルがどういう物かを知れば、どんな反応が返ってくるかは分かっている。
それでも、いずれ知られるだろうから。
だから今、話す事にした。
「触れた魔術と……それから触れた魔術師が使えるスキル以外の魔術。そういうのを劣化させてコピーする力だった」
「劣化ってどの位だ」
「……大体十分の一位だよ」
「十分の一……か。そうか」
一瞬何かを考えるような意味深な間を空けた後、ロイドは嫌な笑みを浮かべた。
「じゃあお前のスキルは全く役に立たなそうだな。本当にお前は魔術師向いてねえよ」
そう言って俺の事を鼻で笑った兄貴は一拍空けてから言う。
「だからまあ良かったんじゃねえの? 中途半端なスキルが刻まれるより今みたいに使い道のねえゴミが刻まれた方が」
「何が言いたいんだよ兄貴」
「これでもう変に希望持たねえで諦めが付くだろ。お前に魔術師の才能は無い。そんで頼みの綱のスキルもゴミと来たんだ。だったらどうやったって魔術師としては碌な道が残ってねえよ。だからこれ以上意味の無い無駄な時間を過ごす事はねえだろ。さっさと荷物纏めとけよ無能」
そう言って。
言いたいことを言うだけ言って。
兄貴は笑い声をあげて、俺を横切って去っていく。
そんな背中を睨みながら心中で吐き捨てる。
……分かってる。全部俺が無能だから悪い。
それは分かっている。
だけど兄貴の事は嫌いだ。
大嫌いだ。
親父や長男と違って昔は優しかったのに。
出来損ないの俺の手を引いてくれていた筈なのに。
そんな綺麗な記憶にある面影は微塵にも残っていない。
兄貴の事は……今は嫌いだ。
本気でいなくなって欲しいと考える位に。
「……帰るか」
寮に帰ってやれる事はやろう。
……絶対に荷物は纏めない。
纏めてたまるか。
そう思いながら視線を正面に戻すと、廊下の曲がり角に隠れて僅かに顔をぴょこんと出してこちらに向けられている視線に気づいた。
俺はまだ顔に残っていたであろう険悪な表情を無理矢理掻き消して、作り笑いを浮かべる。
「そんな所でなにしてんだアイリス」
「あ、いや、どうなったかなって……ちょっと心配でさ。そしたらなんか怖い人と話してるし……流石にそこに割り込む勇気はボクには無いよ。そんな訳で、此処に隠れて待機していた訳さ」
そう言うのは俺のクラスメイト。
ボクなんて一人称をしてるけど、ショートカットが良く似合う整った顔とか、高い声とか小さめの背丈とか……その、なんというか……胸元とか。そういう所を見れば確実に分かる通り女子。
そして……この学園唯一の俺の友達である。
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