ex そう遠くない未来の話

(……まあ改めて接してみても普通だよな。典型的な魔術師とかそういう感じじゃなく、普通にどこにでもいるまともな子供って感じだ)


 校舎に辿り着きユーリとアイリスと別れたブルーノは、職員室へと向かいながら思考に耽る。


 昨日自身が介入した問題の渦中にいた少年少女は、とにかく普通の善良な学生といった印象を感じさせた。

 特にユーリという劣化コピースキルを持つ少年の方は、将来的に人助けをやりたいという事を言っていて、それが嘘にも思えなかったから善良性を感じられる。

 アイリスも、答えはしなかったものの、きっと悪くない何かを目指してはいるんじゃないかとは思えた。


 そして結果的に力を得た二人が、これまで虐げられていた事に対する復讐を行おうとしているような素振りも無い。

 水に流す気も無いだろうが、大人が止めなければならないような行動を取りそうな様子も無い。


 今までそう長くない時間の中で色々な人間を見てきたから大体判別がつく。


 どこにでもいるような普通の善人。

 あの二人はそういう子供達だ。


 とにかく順当に行けばあの二人は良い魔術師になるかはさておいて、良い感じの大人にはなるんだろうなと感じられた。


 ……だからこそ、疑問に思う。



(……どうしてあの二人の存在が世界の滅びに繋がるんだ?)



 そう遠くない未来、この世界は滅びるらしい。


 大いなる厄災が世界を包み込む。

 その中心にいるのがユーリ・レイザークとアイリス・エルマータの二人だそうだ。


 ……事の核となるのはアイリス・エルマータの未知の術式で間違いないとは思う。

 本来の性能から大幅に劣化していてもあれだけの出力が出せる力。

 それだけでも脅威なのに、おそらくこれからも一歩一歩歩みを進め、より強い術式を手にするだろう。

 そして未だ未成熟で、これから先に成熟するかどうかも分からないが、その未知の術式をユーリ・レイザークは扱う事ができる。

 彼もまた、今よりも強い出力で力を使えるようになる時が来るのかもしれない。


 もしこの先、双方が今よりも見違える程成長した場合、そういう厄災を起こせるだけの力を得られるのかもしれない。


 その可能性については分かっている。


 だけど……それを起こせるだけの力を良くない形で振るう理由までは到達できない。

 一体この先何がどうなったら、あの二人がそう言う道を辿るのかが、まるで見えてこない。

 一体何が引き金を引かせるのかがまるで分からない。


 とにかく、リスクを減らす事を考えたら、早い段階で消してしまった方が良いだろう。

 セオリー通りに行けばそれが正しい。


 だけど。


(……ほんと、倫理観が狂いまくったクソガキなら、まだほんの少しはやりやすかったんだけどな。いや、それでも難しいか)


 彼にそれはできない。

 それだけはできない。

 故に導く側へと回った。


(……穏便に行こう。せめて、行ける所までは)


 ブルーノは心中でそう決意して潜入先……ドルドット魔術学園の職員室の戸を開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る