17 バディ結成
アイリスに相談する。
その行動を行ったのは、ブルーノ先生の研究室を出てから約三十秒後の事だった。
「先帰ってて良いって言ったのに」
「まあまあ」
一体どんな話でどれ位の時間が掛かるか分からなかった事もあり、いつも一緒に帰ってるアイリスに先に帰っていてくれという話をしていた訳だけれど、当然というように待っててくれている。
……俺も昨日待ってりゃ良かったな、うん。
まあそれはさておき。
「ん? ユーリ君その紙は?」
「魔戦競技祭の参加申請書」
「え……って事は出るの? というか個人戦ってもう終わってるよね? え? ん? どういう事だい?」
「……実はな」
この前折角退学の危機を脱したのにまたこれだから、正直話すのは億劫になるんだけど、この辺りの話は避けて通れない。
だから俺は歩き出しながら、今ブルーノ先生の研究室で話していた事をほぼそのままアイリスに伝える。
「……なるほどそれで。大変な事になったね」
「ああ。大変な事になったよ…………えーっと、マジでとんでもねえ事になってんだけど、なんか反応薄くね?」
「え、そ、そんな事無いよ。大変な事置き過ぎて感覚がバグってるのかもしれないね」
「……?」
なんだろう……既に知ってる事を聞いたような。
それ聞くの二回目みたいな、そんな感じの反応の薄さというか、反応が若干演技っぽい気がしたんだけど。
「……」
「……」
ま、気のせいか!
……で、そんな変な疑いを掛けるよりも、相談とかしておかないとな。
「……で、ちょっと頼みがあるんだけどさ」
大会中、必要であれば術式の入れ替えとかをしたいから、その時できれば対応頼むといったお願い。
だけどそれを口にする前にアイリスは、胸に手を当てて言う。
「分かってるよユーリ君。ボクが二人目の出場者として出れば良いんだね」
「え、いや、違うけど……流石にそれは頼めねえだろ」
アイリスの言葉をそう否定すると、一瞬場が静まり返る。
あれ、冗談とかじゃなくマジで言ってくれてた?
「え、いや、全然頼んでいいよ。寧ろ頼んでくれ頼ってくれ」
「いやいやいや、流石にそれはマズいだろ、どう考えても」
ほんと、何言ってんだアイリスは。
「普通に危ないんだぞ」
「いやそんなの知ってるよボクだって」
それでも、とアイリスは言う。
「多少のリスクを負ってでも、ボクはキミの力になりたい」
とても真剣な表情で。
「昨日ボクの部屋でキミも見たように、ボクの魔術はまだまだ未完成なんだ。それでもキミは強さを示してくれたけど……それでもまだ、勝てない相手がいるかもしれない。そうなった時、僕が居れば協議中に術式の入れ替えができるし……簡単な物だったら状況に合わせてチューニングだってできる」
「いや、そりゃそうかもしれねえけど……」
「それでも危ないって感じかな。でも今は自分の事を優先して考えないと駄目だよ、ユーリ君」
「……とは言ってもな」
アイリスに怪我とかさせたくねえし……いくら回復術師が控えてるからって、それはマズイと思う。
……いや、勿論アイリスが居てくれた方が、俺のやれる事は増えるのかもしれないけど……それでも。
「やっぱ駄目だって。俺お前に怪我とか絶対してほしくねえからさ。そこん所は譲れねえよ」
譲る訳にはいかない。
……それだけは絶対に駄目だ。
そしてアイリスは一拍空けてから、難しい表情を浮かべて言う。
「ま、ユーリ君ならそう言うよね。うん、冷静に考えてそのまま頷いてくれる訳が無かったよ。ユーリ君は優しいからさ」
「……気持ちだけ受け取っとくよ」
うん……危ないのに一緒に戦ってくれようとしただけで、俺は十分だよ。
満足だ。
「ユーリ君」
だけど……アイリスからすれば、俺のその反応は全く満足のいく物では無かったみたいだ。
「そりゃ危ないのは嫌だけどさ……ボクはキミがいなくなる方が嫌だ。ずっと辛いんだ……こんな所に一人にしないでくれよ」
「……ッ」
流石に。
流石にそんな事を言われたら揺れる。
これは、この申し出は受け入れなければならないんじゃないかって思ってしまう。
……だってそうだ。
自分の失敗が自分の中で自己完結しないのなら。
それがよりにもよって、アイリスに最悪な影響が行ってしまうなら……それは駄目だって思ってしまう。
でも、アイリスに怪我とかを負わせる訳にもいかなくて。
だとすれば……一体どうすれば良いのか。
それを解決する、できるかどうかも分からないシンプルな案は存在する。
選べるのは、それ位。
「……分かった。じゃあ頼めるか、アイリス」
「も、勿論」
そう言ってなんか恥ずかしそうな表情を浮かべるアイリス。
う、うん……捉え方によっては少しこっちも恥ずかしくなるような事を言われた気がする。
まあ、とにかく。
アイリスと一緒に出場するなら、絶対にこれだけは譲れない。
俺は自分への決意も込めて、アイリスに言う。
「……じゃあ俺はアイリスを何が有っても絶対守るよ。怪我なんて絶対にさせねえ」
死に物狂いで勝ちに行く。
そして死に物狂いでアイリスを守る。
そう言う戦いに臨んでみようと思う。
「うん、頼りにしてる」
少し顔を赤らめながらそう言ったアイリスは、その後小さく笑みを浮かべてから言う。
「じゃあバックアップは任せてくれ」
「おう、頼りにしてる」
ほんと、頼りになるよ。
やっぱりアイリスは凄いんだ。
……で、俺は基本アイリスの力を使うから、結局凄いのはアイリスって事にはなるんだけどさ。
アイリスの為にも、全力で勝ちてえって思うよ。」
で、チームを組むことになるんだから改めて。
「じゃあチームメイトとして、改めてよろしく頼むよ」
「そうだね。改めてっよろしく、ユーリ君」
……と、そう言ったアイリスだったけど、少し複雑な表情を浮かべる。
「……どうした? まだ何か問題が……」
「いや、ボク達の場合二人一組って感じだからさ。チームメイトって響きがなんかしっくりこないというか……そうだ」
アイリスは良いことを思いついたという風に提案してくる。
「バディってのはどうだい? 二人一組の場合、こっちの方がしっくりこないかい?」
「確かに。後なんかこっちの方がカッコイイ」
「同感だ。じゃあボク達はこれからバディって事でよろしく」
「ああ、よろしく」
こうして俺達はとりあえずチームメイトというよりは、バディって感じになった。
……アイリスの相棒ね。
俺が凄い格落ち感があるから……ほんと、頑張らねえと。
自分の為に。
……アイリスの為に。
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