9 光と影 Ⅰ
しかしこれはミスれないな。
無茶苦茶責任重大じゃねえか……まあ、ミスる程難しい事はしないんだけど。
術式のコピーも、それを出力する事も、特別難しい事は無い。
この力は、俺程度の実力でもその辺を簡単に行える力だから。
……いや、駄目だな。
俺程度とか考えるな。
俺も凄いんだ。
そう思うって決めただろ。
あんまり自分を卑下するような事を考えてたら、どこかでそれが表に出そうで。
それがアイリスの前ってのは避けたいし、とにかくそれは駄目だ。
「……」
まあアイリスが色々言ってくれる前よりは大分前向きにはなれたとは思うよ。
実際俺がろくでもない性格をしていて、そのせいで劣化コピーのスキルが刻まれてしまった、みたいな仮説はもう俺の中では殆ど消えている。
それでもまあ、場の雰囲気とか勢いってのは結構大きい訳で。
あの時は結構本気で自分の事を凄いって、前向きに考える事ができたんだけれども、それでもゆっくりと麻酔が切れていく様に。
勝利の余韻が冷めていく様に。
気が付けば自己暗示の様に、現実逃避するように、半ば無理矢理自分の事を肯定しようとしている自分が居る。
折角凄いって言葉を掛けてくれたのに。
耳を塞ぎたいようなあの連中やハゲから向けられた罵倒に同調しそうになる自分はまだ消えていない。
「ん? どうしたんだいユーリ君」
「あ、いや、何でもねえよ」
なんでもない。
そんな言葉をもうちょっと心から言えるように。
自分で自分に自信が持てるように。
ちゃんとアイリスにとって自慢できる友達でいる為に。
もうちょっと、頑張って前を向いて行かねえと。
そんな事を考えながら、俺はアイリスとブルーノ先生と共に試験会場へと足を踏み入れた。
◇
その後、ブルーノ先生からこれからやる事の簡単な説明を受ける。
ただ、アイリスの術式を見せてやればいい。
本当にそれだけ。
達成しなくちゃいけないような目標も無い。
「緊張するか?」
「いやそりゃ緊張しますよ」
説明を受けた後の、予定時間までの僅かな空き時間。
アイリスはちょっとお手洗いに行っていて、俺はブルーノ先生と二人で居た。
曰く収集が付かなくなるから、時間まで他の先生とかが俺達に話を聞きに来たりするのはNGらしく、俺達が待機していた待合室はとても静かだ。
そんな静かな待合室の中で、軽く深呼吸してから言う。
「俺がうまくやらないとアイリスが正しく評価されないんで。まあ使う事自体は全然難しくないから、ミスったりはしないと思うんですけど」
「ならうまくやってやれよ。お前がちゃんとやれば、アイリスの評価はうなぎのぼりだ」
「そうですね……そうなってくれると嬉しいです。アイツはマジで頑張ってて、ちゃんと結果も残してる奴だから。評価されないままなんてのはあんまりだ。アイリスは評価されないと駄目なんですよ」
「……」
俺の言葉を聞いて少し黙った後、ブルーノ先生は言う。
「俺達は、じゃなくてアイリスはなんだな。これからお前も目立つんだぞ。もうちょっと自分も輝いてやろうみたいな考えはねえのか?」
「……まあ、ない訳じゃないですよ。寧ろ俺だって評価されたい。凄いって言って貰えるのは本当に嬉しいし……ちゃんと認めてもらいたい」
だけど、と本音が漏れ出す。
「今の俺に認めて貰える要素なんてないでしょ」
そんな、アイリスに否定して貰った本音が。
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