19 戦いの才能 上

「俺ならって……それどういう事ですか?」


 俺なんて寧ろこの学園で一番それが難しいんじゃないかとすら思うんだけど……どういう事だ?。

 そう考えていると、ブルーノ先生は聞いてくる


「この前の追試の時、状況を考えるにぶっつけ本番でアイリスの術式を使って戦ったんだろ?」


「まあ……そうなりますね」


「ボクの術式をコピー出来るのに気付いたの、ほんと直前でしたし」


 だからまあほんと、うまくいって良かったよなあの時。

 改めてあの時の事を思い出して安堵していた所で、ブルーノ先生は言う。


「だとすりゃ十分希望はあるぞ」


「……? えーっと……つまりどういう……」


 全く関連性が見えて来ねえんだけど。

 ……アイリスも分かってねえみたいだし。

 俺もほんと……マジで分からねえ。


 そして答えを出せない俺達に、ブルーノ先生は言う。


「お前には戦いの才能があるって事だよ」


「戦いの……才能?」


「ああ。それをお前はあの追試で証明した」


 分からない。

 ブルーノ先生の言いたいことが。


 ……あの戦いで何が見えた?

 あの戦いで俺がやったのは舐め腐ってイキり散らした、悪目立ちする戦い方だ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 そんな評価されるような事を、俺はしていない筈だ。


「……分かんねえか」


「……はい」


「しゃあねえ。なら説明してやるよ。だからまずアイリスのじゃない。自前の強化魔術を使ってみろ」


「あ、はい!」


 言われるがまま、術式を構築して魔術を発動させる。

 ……全身に力が宿る、使い慣れた普段通りの感覚。

 俺が積み上げてきた物の結晶。

 それでもアイリスの強化魔術を使った今では、微弱にも程があるちっぽけな力。


「……使いましたよ」


「その感覚を覚えとけ。それが今までお前が使ってきた力の感覚だ。じゃあ次、アイリスの強化魔術」


「わ、分かりました」


 俺の強化魔術を解除し、劣化コピースキルを発動させアイリスから劣化コピーした強化魔術の術式を展開する。


「……」


 自身の術式の直後だから感じる格の違いを感じ取れるような。

 初めて使った時と同じように、生きている世界が変わったのではないかと錯覚するような強い力が湧き上がってくる。

 ……それで。


「使いましたけど、これからどうすれば良いんですか?」


「ん? なんもしなくていいぞ」


「「……え?」」


 俺とアイリスが同時にそんな声を出す。

 えーっと……説明の為に何かをする必要があったから、これ使ってんじゃないのか?

 そしてまるで意味が分かっていない俺に、ブルーノ先生は言う。


「……感覚、大分違うだろ? それこそ同じ体動かしてんのかって位」


「ええ、まあ……立ってるだけでも全然違いますけど」


「普通はそこまで感覚が普段使い慣れてる奴と違ってたら、まともに動けねえんだよ」


「……え?」


 どういう事だ?


「偶に強化魔術と同じような効力のスキルを発現する奴がいるが、仕様や出力が従来の物と断れば大体うまく使えない。例え強化魔術の効力で動体視力や反射神経を強化されていたとしてもだ。そしてそれは元の強化魔術と新しい強化魔術の違いが大きければ大きい程影響は顕著に出る。それこそ冗談抜きで、勢い余って壁にぶつかるとかな」


 だが、とブルーノ先生は言う。


「お前の動きは鋭かった。そこまで出力に差があってしかも初めての実践であの動きだ。中々できる事じゃない。普通はもっと不格好な戦いになる……つまりだ」


 そして一拍空けてからブルーノ先生は戦いの才能の正体を口にする。


「ユーリ。実はお前、超が付くほど運動神経が良いんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る